四話 成長



ミヨちゃんは、シャカイジンになったらしい。


ボクが玄関で待ってもミヨちゃんは帰ってこない。


ボクがリビングで寝てても、ミヨちゃんはツンツンしてこない。


ボクが一緒に寝てあげないと、ミヨちゃんは眠れないのに。今、一人なの?


ねえママ、なんでミヨちゃんは帰ってこないの?


ねえパパ、ミヨちゃんは大丈夫なの?


聞いても撫でてきて、「シャカイジンになったから、ヒトリグラシをしているんだよ。」って言われる。


ボクには意味が分からない。


ボクはパパとママみたいに二足で歩かないから、どういう事なのかが分からない。


お散歩の時、ミヨちゃんみたいな二足で歩いてるのを見つけると、ミヨちゃんかと思っちゃう。


おっきな窓で、ミヨちゃんが居ないかいつも見てる。

いつミヨちゃんが帰ってきてもお迎え出来るように、見張ってる。


お外の景色はいっぱい、いっぱい変わっていった。


時折、丸いギザギザのお花が入ってくる生暖かいキセツ


太陽が明るくて、日向ぼっこの調節が難しいキセツ


ちょっと肌寒くて、サツマイモがちょっとだけ食べられるキセツ


寒くて、コタツに入ってて、窓には近寄れないけど、がんばるキセツ


いろんなキセツを回って。


ある日、ボクはパパとベッドに入った。

パパが一緒に寝ようって誘うから、仕方なく付き合ってあげることにした。だって、しょうがない。


ボクがベッドに入ってあげると、パパの匂いがした。ミヨちゃんがクサイって言ってた匂いだ。

カレイシュウだっけ。


お部屋が暗くなって、パパはボクを撫でる。


「タロウ、寂しいか?」


サビシイって何?

ボクは分からなかった。サビシイを知らなかった。


「寂しいっていうのはな、会いたいって思う事なんだ。」


そっか。じゃあ、寂しい。


ボクね、ずっと寂しいよ。





ボクは夢を見た。


「タロウ」


ボクのなまえを呼ぶ声がする。

舌っ足らずで、聞いたことのある声。大好きな声。


目を開けると、そこには小さな二足で歩くのが居た。


「タロウ」


パパとママが言ってた。

この子はコドモだ。


たからもの。

パパとママにとっての、大切なたからもの。


だから、ボクにとってもたからもの。


「タロ!」


コドモがボクのなまえを呼ぶから、ボクはコドモに近寄る。


ゴチン、て痛そうな音をたてて、コドモが転んだ。頭をぶつけちゃったんだ。


「う、うわあああん!」


コドモが大きな声で泣く。

顔がビチョビチョになる。


大丈夫、大丈夫だよ。


ボクが顔をベロリと舐めると、コドモは声を上げて笑った。

べしべしボクを叩いてくる。力が強いけど、大丈夫。


立とうとするコドモは、あまり上手に立てないみたいだ。


がんばれ。がんばれ。


ボクはキミを持ち上げることは出来ないけど、応援するよ。がんばれ。


立ち上がったコドモは、またうれしそうになる。


「こら、叩いちゃダメでしょ。タロウを叩いちゃダメ。」


良いんだよ。

少しづつ覚えていけばいいんだ。ボクが教えてあげるよ。


鼻をくっつけるとコドモは、変な声でうれしそうにする。

ボクはコドモの顔を真似て、ボクもうれしいって伝える。


「もうすっかりお兄ちゃんね」


うん、そうだよ。

ボクはこの子に教えてあげるんだ。それで、守ってあげるんだ。


だって、ボクはお兄ちゃんだから。たからものだから。


「ミヨ、お兄ちゃんがいて嬉しいね」


ミヨ。ミヨちゃん。ミヨちゃん。


ボクの大切な大切なたからもの。

パパとママが大切なものは、ボクも大切。


ボクが傍に居るからね。

ボクが守ってあげるからね。

分からないこと、不安な時も、怖いやつがいる時も、ボクが守ってあげるから。


一緒におっきくなっていこう。


ミヨちゃんがおっきくなるのが楽しみだなぁ。

一緒にお散歩行こうね。ご飯食べようね。


ねえ、ミヨちゃん。

キミはどんな風におっきくなるのかな。


ねえ、ミヨちゃん。

ねえ、ミヨちゃん。


一緒におっきくなろうね。



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