第7章 大太子出奔(9)

 壊されたり荒らされたりした王城や広い庭園を元通りに美しく整備して、新しいアムランの指導者を迎える準備が進められていく。

 やはり周辺国との交流にも、オルセン大公の名称は残したいとか、大公の帰国を待とうという人々もいたが、いつの間にかジョンとアンリがリョウ・オルセン大公の息子で、ダイゼンの力と教育を授けられて母国再建のために帰国したのだという話が広がって行った。噂を流したものがいたのか、だれが言い出したのかは不明だったが、確かに二人の容姿は大公に似ていると、街では評判が評判を呼ぶ。

 そのうち宰相に推されたジョンの婚約者が、アムランで人気のある歌姫ベラ・アマリの夫であり、カリヤ公第一の側近であるケイン補佐官の娘だと判り、喜んで祝福する声も挙がる。ベラ・アマリの実の娘ではなくても、アムランではとやかく言う人はいなかった。

 その上、大公妃でありながら陰に追いやられていたメイ妃の姪が、最高位に就くアンリと結婚するという知らせは人々を喜ばせた。

 大祭の初日に行われる就任式にはカリヤ公や、ケイン補佐官とベラ・アマリも参加する。

 ベラは長年アムランにいるせいか、すんなりユリを受け容れて、平然と公衆の前に現れるらしい。着々と準備が進められた。

 ジョンとアンリも一息ついていた。

「父が元気でアムランに戻れることになってよかったよ。アンリもやっと父大公を認めるようになったのだしね」

「なんだかアンリ・オルセンと名前が変わったら、本当にアムランの人間になったように思えるのだから、おかしなものだな」

「私もジョン・リードのときは真面目な感じがしたのに、ジョン・オルセンのほうがおしゃれと言うか、大公の息子らしいと思えるのだ。名前で性格や運命が変わるわけではないだろうが、これからは母国のために頑張るよ」

「名前も運を変える力を持っているかもしれない。それはそうとメアリ姫はどうなったのだろう。まだ行方が判らないとは…」

「いつか判るだろう。彼女はオルセンじゃない。メアリ・モールだと思って忘れよう」

「そうだな、良い噂は聞かなかったが…我らはオルセン家を誇りとして、新しい世界へ飛び立とう」見つめ合う瞳は輝いていた。

「アンリ、私はもっと芸術の幅を広げて、世界があこがれるような文化を作り上げたいよ」

「世界には、男性がお姫さまに扮する芝居や、男装の麗人が活躍する歌劇もあるそうだね」

「見学に行ってみたいな」

「ジョンも唄う宰相で良いじゃないか。アムランは芸術の国だから、年に一、二度くらい祝祭に美声を披露しろよ。喜ばれるよ」

「良いなあ、考えておこう。しかし、まずは国の安定と発展に力を入れるよ」


 自分たちの活躍がダイゼン王太子の心を動かし、大国から飛び立つ決断をさせたとは知らない二人だったが、自分が進むべき道を選び、実行するのは自分自身だ。

 国のためでも愛する人のためでもいい。自分の力で苦難を乗り越え、達成したときの喜びは何にも替えがたい満足感と自信をもたらすのだろう。

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