第7章 大太子出奔(4)
「サラの葬儀のあとで、余はあの子のことを話したな。どうしようもない子になるとか、誰かに利用されて国を乱すだろうとも言った。それで思いついたことなのか?」
「それもありますが、実は以前から一人は知っていたのです。アダがアムランの魔術団にいたとき、アダを誘っても断られた大公が、アダの親友だったリナを口説いた。そう、リード公の許で世話をしているリナ夫人ですよ。アンリは大公とリナ夫人の子ですが、何も知らせずジョンと分け隔てなく育てた。立派です。大公は魔術団の女が母親とは認めなかったが、金品は渡していたようです。そしてジョンは母がアムランの歌姫として人気があったので認知し、養育費を届けていましたが、肺を病んで疎遠にされた。もう亡くなりましたが、きっとジョンの活躍を喜んでいるでしょう。私は王の話を聞き、アムランへ行った折に、アダとその仲間に攫わせたのです。将来アムランを背負って立つ強い躰と精神を持つ良い青年に育ってほしかった。リード公に、ひとりは政治力に、ひとりは武力に重きを置いて育てて頂きたいとお願いしました。幸い二人ともリード公の薫陶に応えて、立派な青年に成長した。さすがです。王の推察どおり宰相の没後、徐々に国は乱れ、大公の人気も落ちました。セイラ妃一族の横暴と美青年寵愛も反感を買った。しかしリナ夫人の異母弟がダイゼンの話を聞き、国を立て直そうと同志を集めて決起したのです。これからはジョンとアンリがアムランを変えていくでしょう。私の仕事はもう終了しました」
「そうか。リード公も見事に沈黙を守られたが、慈しんで育てた息子たちを手放されて、どんなお気持ちなのか、一度ゆっくり森の館を訪ねてみよう」
「親身に面倒を見て頂き感謝しております」
「それで身代金というわけだな」
「教育費としてお渡ししたのを、アムランに戻る日のためにと蓄えていてくださいました」
「まったく我が子より良く世話をされたぞ」
王は大らかな笑みでカリヤ公を見た。
「大公が父親と知って、二人とも一瞬嫌な顔をしたのには苦笑しましたよ。しかし同じ髪、同じ瞳の色ですから、疑いようがありません。改めて使命の重さを感じたようです」
「髪の色には悩まされるな。アン姫は見事にカリヤ公の血を受け継いだ。まったく美しい姫になった。みんなが歓心を買おうと群がったのも無理はない。おかげで余もクロードも困らされたが、アンリが大公の息子かと思ったからこそクロードに勝たせたくなったのかもしれぬ。アンリには冷やひやしたぞ」
「アンリが何か致しましたか?」
「王太子のお妃に望まれないのであれば、自分との結婚を進めて頂けないかと直訴に来た。どのくらい進展しているのだと訊いたら、ちょっと接吻した程度だと言って顔を赤らめていたが、アン姫の態度がはっきりせず、やきもきしている様子だったぞ」
「知りませんでした。しかしアンはクロード王太子だけをずっと愛していたはずです」
うむ、と王は頷いた。侍女に運ばせた香茶を手に取ると、無言でゆっくり味わう。何も言わなくても満ち足りた想いを共有し、信頼の絆がいっそう強く結ばれたのを感じながら。
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