第6章 明かされた秘密(5)

 「母上はお戻りになりますわね?」アン姫は少し心配そうに尋ねる。

「私は弟がいてうれしいのですけれど」

「驚いただけだ。落ち着けば戻ってくる」

「そうですね。カリヤが家族のいる家ですもの。よその家で安住はできませんわ」

 アン姫のほうが、よく判っているとカリヤ公は思う。カリヤはアン姫の大切な国であり、護るべき家族なのだ。

「父上、私は結婚したら、強い子をたくさん産んで、良い子に育てます。賑やかな家族で助け合って、カリヤをもっと良くしたいのです。カリヤは私の命であり、誇りですから」

 力強いアン姫の言葉にカリヤ公は微笑んだ。

 早くクロード王太子との恋を実らせてやりたい。しかし今は待つしかないだろう。

 アムランの情勢はダイランにも届いているはずだ。あとは王太子の決断次第だ。

 やがてアミラ公妃がひっそりと帰城し、口数少なく自室にこもりがちだが、三日ほど後に、カザル王夫妻がカリヤを訪れ、貴賓館に宿泊した。私的な周遊とはいえ、公妃の様子を心配しているのは明らかだが、カリヤ公は友情を感じながらも互いに距離を保っている。ただ見交わす瞳は信頼していた。そこへセキトからの鳩が朗報を告げに飛んできた。

カザルへ行き、姉ケイト王妃に自分の苦悩を打ち明けたアミラ公妃だったが、じっくり話を聞き終わると王妃は妹を慰めた後で

「あなたはカリヤ公妃として明るく輝いていなければいけないのよ」と諭した。

「私はカリヤ公が軽はずみなことをするとは思えないの、しっかり家族を守る方よ。ただ、あなたがアン姫とサラ姫がいるから、もう子どもは欲しくないと言ったとき、少し心配しましたよ。私は男児二人と女児も授かって、家族で過ごす時間が楽しいし心が安らぐのに、あなたは自分の夢を追っているようで、子育ての楽しさを知らないのかと……」

「でも、確かに夫は子ども好きですけれど、それが原因とは思いませんわ。アダに誘惑されたのか、私が知らないうちに深い仲になって息子が産まれていたなんて……」

「妻の承諾を得てから浮気する男性はいないと思いますもの」とケイト王妃は少し笑った。

「カリヤ王朝の血脈が残った。それも現カリヤ公との間に。喜んで受け入れておあげなさいよ。他の女性と深く長い仲になったわけではないし、男児が居れば将来アン姫にとっても心強い存在になるでしょう? あなたはカリヤ公妃として安泰、自信を持って頂戴」

「許せと仰言るの? 姉上は夫に隠し子がいても平気でいられますか?」

「確かに心は乱れるでしょうけれど、私は妻の座も家族も守って知らぬふりをすると思うわ」

 それから王妃は秘めた思いを告白した。

「私もアキノさまに初めてお会いしたとき、なんて素敵な方かしらと心がときめいたのを覚えていますよ。でも皆のあこがれの的だし、もし妻になったら心配で心穏やかに暮らせないだろうと想像して、真面目なダリウスに惹かれていったの。堅実で女性問題など起こさない良い夫になるという確信があって……でもカザルの争乱で心を痛めたり、思わぬ苦労をしましたよ。人生は何が起こるか判らない。あなたがアムランへ嫁いだのに、あの方と結婚するとは夢にも思わなかったわ」

「いま思えば大公は夫より優しいところもあったのよ。でも、メイ妃の存在が許せなかったの。怨みたくないけれど、でもやっぱり夫も私を裏切ったわ」

「いいえ、あの方は節度を心得ているし、曲がったことは嫌いな立派な方だと思うの。私はカリヤ公を尊敬しています。何か事情があったのだと思うし、責任の一端はあなたにもあったはずだと思うわ。あなたが気づいていなくても夫の誇りを傷つけたとか……」

「夫を責めるなと仰言るのね。判らないけど」

「夫婦間のことまで私は口出ししませんけれど、あなたが立派な公妃として、国民に慕われるように、カリヤ公と仲睦まじい姿を見せて喜んでもらうのが、いちばん幸せで賢明な方法だと思うのよ」

「私が折れて我慢すればいいと仰言るの……」

「寛容の努力はきっと実って必ず報われる日が来ます。それに、あなたの居場所はカリヤよ。カリヤや家族と離れてどこへ行けるの? カリヤ以上に良い国はどこにもありませんよ」

 冷静に考えれば頷けることが多い。姉ケイト王妃と話し合って、アミラ公妃の気持ちはだんだん落ち着いてきた。

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