第6章 明かされた秘密(2)
たまに独りで瞑想の時間を過ごすという父カリヤ公に従いて行ったアン姫は、一度で懲りてしまった。静かな小部屋でじっと目を閉じ、身動きもせず精神統一をするのは難しい。雑念が入っていろいろ考え、かえって心が乱れてしまう。それより思いきり馬を駆けさせるほうがすっきりする。
それでも瞑想を終えて帰城すると、カリヤ公は新たな活力を得るのか、側近に指示を与える声にも張りがあり、(父上には瞑想が適っているのだわ)とアン姫は思っている。
サラ公妃の人形が飾られた記念館へも、月に一度は香華を手向けに行く父とは別に、アン姫はそっと一人で訪れることがある。長椅子に腰かけて正面の大きな肖像画を見ながら、あれこれと空想にふけるのが楽しいのだ。
若い頃の父とサラ王女が並んでいる美しい肖像画のように、クロード王太子と一緒に描かれる自分の姿を想像したり、子どもが産まれたら家族そろっての絵も……などと考え、クロード王太子と結婚できる日を待ちわびる。
休館日でも専用の入り口から入って、肖像画を見ながら、ひとり物思いにふけっていたある日、静かな館内にひっそりと足音が近づいてきた。近くに飾られたサラ公妃人形の前で花を捧げながら祈っている姿をそっと覗くと、良く接待をしてくれるリノ老婦人だ。
カリヤ王朝の時代を知っている数少ない一人でもある老婦人は信仰心の厚い優しい人で、アン姫は安心しながら祈りの言葉を聞くともなく聞いていたのだが、祈りを終えてから洩らした老婦人の意外な話に耳をそばだてた。
「サラ王女さまのお陰でカリヤ王朝の血脈が保たれました。どうぞ次の世代へもカリヤの血が引き継がれますよう、カリヤ公やアダさま、そしてイクマさまをお護りください」
ん? アン姫は首をかしげた。リノ老婦人が願うのはカリヤ王朝の血の存続? おかしい。イクマはアムランの大公の子ではないのかしら? なぜ父やアダ司祭の名前が出るの。カリヤの血をイクマが受け継いだのなら、母親はアダ司祭ということになる。でも父親はだれ? まさか父が関わっているとは思えないけれど……みんなを庇護しているだけでしょう? 老婦人が去った後もアン姫は考えていた。イクマは成人したらどうなるのかしら? カリヤの王? いいえ私が女王になるわ。
疑問を放っておけないアン姫は、その夜、父の部屋へ押しかけて率直に質問した。カリヤ公は黙ってアン姫の話を聞き終わると、
「アンは秘密を守ると誓えるか?」と尋ねた。
「誓います、父上。イクマは本当に父上の子で私の弟だとお認めになるのですね」
アン姫の烈しい瞳をカリヤ公は受け止めた。
「これから話すことはアンの胸のうちにだけ留めて、母にも言ってはならぬぞ」
「判っています、父上。だれにも話しません」
アン姫の顔を見ながらカリヤ公は話し始めた。
「カリヤは平和で美しい国だった。カリヤ王家の方たちも国民に慕われていたそうだ。しかしダイゼンの青い軍隊はカリヤを奪い、王家を滅亡させた。アンが知っているとおりイラヤ高僧だけは祈祷中の姿に剣を向けられず、助けられたという。もう一人、幼い王女が側近の者と城を出てアムランへ逃げようとした」
「アダ司祭のことは知っています」
アン姫は口を挟んだ。昔の出来事より、現在と未来のほうが心配なのだが。
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