第4章 新たな道へ(4)

 初めてエマと郊外の有名な公園へ出かけたアンリは、帰ってくるとすぐジョンの部屋に来て、また「どうしよう?」と相談した。

「アムランの恋愛文化というのが判らないんだよ。エマは初めから恋人気分で唇は盗まれるし、別れ際に、今度はもっと楽しみましょうよ、と言われてしまった。危ないんだよ」

「もう逃げ腰か? 勇ましくて恰好良いアンリはどこへいってしまったんだ? エマがその気なら喜んで楽しめばいいじゃないか」

「私は愛する人と楽しみたいんだ。一度や二度会っただけで、そんな気になれないよ」

「アンリは勇ましいわりに純情なんだな」とジョンは笑った。アン姫を慕っていても実現は無理だろうと冷静に判断している。

「アムランに馴染むしかないだろう? 我々はアムラン生まれで、ここに住むのだから」

「ジョンなら受けるか? 子どもでも出来たらどうするんだ。無責任なことはできないよ」

「結婚してもいいじゃないか。嫌になれば別れて、また再婚する。アムラン流に馴れろよ」

「私はダイゼン流のほうがいいな。ジョンもすぐそんな気にはなれないだろう?」

 ジョンはおかしそうな顔になった。

「カムラ副将に演習が終ったとき、アムランへ行くと伝えて今までの礼を言ったら、アムランで困らないように、好い処へ連れて行ってやると言われてね、高級酒場へ行ったんだ」

 え? とアンリは驚いた。自分は留学のとき、カムラ副将には何も言わずに発ったが……。

「それでどうしたんだよ、まさか……」

「飲んだり唄ったり賑やかだったよ。二代目星の女王という歌姫と一緒に話したり唄ったり盛り上がってね、頃合いを見て副将に言われた歌姫と奥の一室へというわけさ」

 アンリは呆れて、笑っているジョンを見た。

「アムランの恋愛文化を知らないと、女性を喜ばせられないと言われて、つまり愛の手ほどきを受けたんだ。よかったよ」

「なんだよ、真面目そうな顔をしながら……」

「昼と夜とは別だろう? それに初代星の女王はオルセン大公がひいきにしていたそうだ。優しくて面白い人だったと評判はよかったし、いろいろ話が聞けて役に立ったよ」

 う~んとアンリは考え込んだ。

 確かにアムランに住むならアムランの風習に慣れなければならない。そのうえで改めたいところを変えていくのだ。急に変えようとしても無理だろう。それなら協力してくれるアムランの女性がいいかもしれない。

 アン姫の美しい瞳や愛らしい唇が目に浮かぶ。会いに行きたい。願っても叶えられない思いを断つのは哀しいけど、アン姫がアムランに来ることはないだろう。過去を振り捨てて思いを新たにエマと交際していけば、新しい道や希望が生まれる可能性はある。自分はアムラン再興のために働く義務と責任があるのだ、とアンリは自分に言い聞かせた。

 ところが数日してアンリが明日エマと出かけると言うと、ジョンは「ちょっと待て」と引き止めた。

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