第4章 新たな道へ(3)

 モール一族は捕えられ、民衆の罵声を浴びながら公開処刑された。豪華な衣装をはぎ取られたセイラ妃も命を終えたが、メアリ姫はどこに消えたのか、いくら探しても見つからない。危険を察知して素早く逃げたのか、手助けした者がいたのかは不明だ。ジョンとアンリは処刑の様子を事実として受け止めたが、見たこともない妹の死を目にせずに済んで、何となくほっとした気分になった。

 革命派は意気盛んで威勢は良くても、政治には疎く、学識のある指導者は少なかった。アラセ長官が議会を取り仕切るようになり、主導権を握ったころ、長官の代わりに立ち上がったジョンが、淀みなく政治の正しい道やこれから進める政策のあれこれを話し始めた。

 堂々として自信に満ち、説明しながらみんなの意見を求め、まとめていく能力と、よく通る美声に、若者たちは歓喜した。自分たちがアムランの未来を変え、発展させていこうと忙しく働き、役目を与えられた者たちは喜んでアンリの指示に従った。ふたりはアムランの希望の象徴として尊敬されるようになったのだ。

 なかにはオルセン大公はどうなったのだという声もあった。ラウルはいくつかの集会で故オルセン宰相の功績を挙げ、大公はモール一族に利用されて少量の毒を飲まされていたのだと同情させ、いまはカリヤ公の特使に助け出されて静養中だと安心させた。

 美しい観光国として有名なカリヤと、剣美公としても憧れの存在であるカリヤ公が、オルセン大公を信じて支援しているという話は風に乗って方々に広がり、カリヤ公の保証があれば受け入れようという者が多くなった。

 改革に燃える女性もいて、ラウルと出かける集会にはひときわ目立つ活発な美女がいた、いつもラウルと親しげに話しているので、アンリはラウルの恋人かと思っていたのだが、或る集会が終ったとき、ラウルから「私の妹エマだ」と紹介された。エマはずっとアンリの行動を見てきて好感を抱いたらしい。「妹と交際してくれないか」と言われたアンリは返答に困った。一応、折りを見てどこかへ出かけようということになったが、アンリの胸にはアン姫の面影がしっかり刻みこまれている。

 どうしよう? と相談されたジョンは、初めから断るつもりで付き合うのはどうかな、と思う半面、付き合ってみなければ、どうなるか先のことは判らないとも思える。

「何でアンリばかりがもてるんだ?」と冗談を言いながらも、交際を後押しした。

 ジョンは真面目に政務をこなしていたが、ふとダイランへ思いを馳せる。自分を庇護し、学問や教養を与えられたリード公夫妻が懐かしい。その恩に報いるためにも頑張らなければ……。

 それにカリヤ公から出生の秘密を聞き、アンリと兄弟で父親がオルセン大公と知ったときの驚きと、母国の再興を任せるぞと激励されて、心が奮い立った日のことを思い出す。


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