第4章 新たな道へ(1)

 アムランでは、おりしも城内に物品を納入している豪商が次々と捕らえられた。祝宴に着る衣裳や装飾品、履物や扇子、宝石がちりばめられた手提げ類が押収され、商人たちの証言で、城内はおびただしい衣裳や宝飾などのぜいたく品が山積みされていると判った。ラウルたち改革派も、自分たちが納める税金が不当に遣われ、遊興などに費やされていることに腹を立て、モール一族の祝宴など、させるものかと同志たちがいっせいに雄叫びを上げた。

 祝宴の前夜に突入するか、祝宴の朝がいいかと議論の末、闇夜で混乱するより早朝にしようと意見がまとまった。アンリはトーゴに兵士たちの抑えを頼んだが、トーゴはにやっと笑って、「前祝いの酒に眠り薬を仕込んでおくから心配するな」と引き受けた。

 ジョンは早朝の突入より早く、夜中に忍び込んで、大公を脱出させないと危険だとアンリを急がせ、入念に準備を進めた。

 月明りはあっても、暗い入口から秘密の通路を通り、メイ妃の居間に忍び込む。幸い、祝宴の支度に忙しいのか、大公は近くの部屋に移されているという。側にいるのはエミルだけらしい。メイ妃の許にいる侍女が見張ったり報告したりしている。

 祝賀となれば各界の有力者も訪れるし、大公という最高位にいるメアリ姫の父が、元気で挨拶しなければならないと考えてか、最近は酒を飲むこともなく、普通に歩いたり話したりしているというのは良い情報だ。が、さすがに側近くに控える護衛兵たちは、振舞われた前祝いの酒を飲まなかったらしい。

 ジョンとアンリは用心しながら大公の休む部屋に近づき、室内を覗き見た。まだ早朝でもあり、大きな寝椅子にもたれて半分眠っているような大公の足元にはエミルの姿も見える。アンリはジョンを見てため息を洩らした。

「あんな女のような青年に溺れているのが父親だというのか? 私は父とは思わないぞ。国を治められない男など、私は殺してやりたいくらいだ。この国は我々が立て直さなければ無茶苦茶だろう。ジョンは腹が立たないか?」

「アンリ、カリヤ公の言葉を思い出せ。我らはカリヤ公の意思を受けてアムラン再興のために遣わされたのだ。私だって父に対する親しみはないが、秩序も法律も守れないこの国をダイゼンやカリヤのような立派な国にする務めがあるのだ。それが我々の使命じゃないか」

「大公と言う父親などいないほうがいいぞ」

「父と思えなければ思わなくていいよ、アンリ。しかし殺すまでもないだろう。居てもいなくても我々の邪魔にはならない。落ち着け」

「じゃあ、あのエミルを殺そう」

 アンリの激情を抑えるのは難しい。確かに困った存在だが、剣を持ったこともない青年に刃を向けるのも気が進まない。とジョンが思ったとき、いつの間にか後ろにいたメイ妃が部屋に飛び込みざま、エミルに体当たりした。メイ妃が持っていたのは柄に紅玉がはめ込まれた美しい短剣だった。エミルはあっと思う間もなく胸を深く刺されて倒れた。大公はうつろな瞳を開けて、入ってきたジョンとアンリをけだるそうに見ながら声をかける。

「殺したければ殺すが良い。私にとっては救いの刃だ。アムランはもう終わったのだ……」

「いいえ」とジョンが前に出て話し始めた。

「アムランはこれから立派に生まれ変わるのです。その様子をあなたにしっかり見て頂きたい。私たちはカリヤ公の意思を受けて、我々の母国であるアムランを護りに来たのです」

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