第3章 謎めく未来(2)

 「おばあさまはどうして占星術に関心を持たれたのですか?宿命があると思われますか」

「そうね……。人間は自分の思い通りにならないことがあるでしょう? 努力しても実らなかったり願いが叶わなかったり。どうしてなのかと不思議に思ったのですよ。たとえば幸せな結婚をしたと思っても、思いがけないことが起こって夢を砕かれたり、進む道が変わったりして、神の与えられた方向へ導かれてしまう。そういう例をたくさん見てきましたから、やはり宿命はあると思いますよ。王の星を持つ人は王になり、支える星を持つ人は従っていくでしょう。でも、それで幸不幸が決まるわけではありません。貧しくても幸せな人は大勢いますからね」

「支え合っていける人が身近にいてくれたら心強いですね。それが夫や家族ならなおさらうれしいし安心できます」

「まず、あなたが身近な人を愛することね。信頼できる人がたくさんいるでしょう?」

「ええ、でも私は早くクロードと一緒に暮らしたいのです。グラント王が許してくださるかどうか……」

「焦らずにもう少しお待ちなさい」

アキノ夫人は安心させるように言ったが、アン姫はじれったい。どうすればいいかしら?グラント王に直接会って訴えてみようかしら? アン姫はあれこれ考えこんだ。

アン姫が眠ってから、アキノ夫人も考え込む。伸び伸びと育ち、父にも言いたいことを口に出して、自分の意志をはっきり示す孫娘を見ていると、自分は息子に厳しすぎたのではないか、と思ってしまう。美しく生まれついた息子に、弱い男だと侮られないよう、強い男になってほしいと願い育ててきた。立派に成長した息子を誇りにしてきたが、だれにも頼らず、母に甘えることもなかった。甘えたいときもあっただろうに、いまでもあまり親しく話すことはない。

それで良かったのだろうか? 王子との愛の噂が立ったときも、サラ王女の強引な求愛に応えたのも、心のどこかで愛を求めていたのかもしれない。母の愛を得られなかった寂しさが息子の心を迷わせたのではないかと思うと、アキノ夫人は心に痛みを感じる。

サラ王女との結婚は予想していたとおりの悲劇に終わったが、再婚したアミラとの仲も、あまり良くないと思っている。息子にはもう一人、どこかに子どもがいるはずなのだ。

まじめで誠実な人間に育った自慢の息子が、軽はずみなことをするとは思えない。何か事情があるはずだ。

嫁のアミラは確かに美しいが、どこか陰があるし、あまり息子に協力的ではないとも感じる。アムラン大公妃として嫁ぎながら務めを果たせず、傷ついてカリヤへ静養に来たそうだが、芯がないというか、毅然とした覚悟のようなものが感じられない。揺れている花のようで物足りなさを覚えるのだ。アミラは自分では気づいていないだろうが、何か夫の誇りか名誉を傷つけてしまったのだと思う。アン姫を溺愛しているし、子ども好きな息子は、もっと子どもが欲しかったのかもしれない、と思ったとき、アキノ夫人はふと、大公から秘密の男児を預かったという噂に疑問を感じた。もしかしたら?

君主として誠実に公務に励んでいる息子が妻のほかに心を許し、惹かれたとしたら、どんな女性なのだろう。いまは判らないが、そのうちひと悶着ありそうだ。愛情に関しては安定せず、何かと問題が起きるのはなぜだろう。

烈しい気性を秘めた息子は、何があっても責任を回避せず、自分の意志を曲げないと思うが、アミラはそんな夫を優しく受け容れるだろうか? いくら考えてみても判らない。

神に与えられた運命に従って、誠実に対処するしかない。息子を信じよう、とアキノ夫人はふぅっと吐息を洩らした。

息子夫婦の仲も心配だが、いとしい孫娘の結婚も気がかりだ。相性が良いと言っても、強大国の王太子を、グラント王が快くカリヤのような小国へ送り出すだろうか?

それに、恐いもの知らずのアン姫が、おとなしく時が満ちるまで待っていられるか? 夫は、なるようにしかならない、と静観のままだが、自分は星の動きから孫娘の結婚が近いことを感じ取っている。愛する人と結ばれてほしいと願うのは当然だろう……。

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