第2章 母国の人たち(4)
父のハラド公が亡くなり、ダイランでの葬儀が終ったあと、しばらく経ってカリヤを訪れたモリスは、セイランの別荘をカリヤ公に譲りたいと言った。
「放っておいた別荘を見に行ったとき、カリヤ公がセイランで静養に良い処を探しておられると街の仲介屋が話していた。君が使用するのではないと思うが、だれが住んでも居心地は良いと思う。よかったら使ってくれ」
「それは有難い。すぐ使うわけではないが、必要になる可能性が高いから助かるよ」
「アムランの大公だな」とモリスは訊く。
「だいぶ革命派が動いているそうじゃないか。大公の身を案じているという話はジョウから聞いているが、まだジョンとアンリのことは知らせていないのだろう。どんな状態だ?」
うむ、とカリヤ公はしばらく押し黙った。
「酒色に溺れて心身を病んでいるとしても、あの二人が息子と判れば立ち直れるだろうし、環境次第で新しい希望が生まれると思いたいのだが……ジョンとアンリにはよく言い聞かせたから大丈夫だろうが、アムランにも暴走する若者たちがいる。うまく収められるといいが、もう私は遠くから見守るだけだよ」
「あまり心配せず、天命に任せたほうがいい」
「そうだな」とカリヤ公は少し黙ってから、
「今回は独りか? アン公女はどうしているのだ?」と尋ねた。モリスは微笑する。
「剣術に打ち込んでいるよ。イルダ女史の影響か、なぜ女性は結婚しないと一人前に見られないのか、独りでいてはいけないのかなどと言うことがある。イルダ女史は独身でも立派にみんなの尊敬を受けているからね。私は良縁があれば結婚してほしいと願っているのだが、なかなかいないのだよ。アンの理想が高いのかもしれないが」
そうか、とカリヤ公は沈黙する。
「最近はイルダ女史の代わりに稽古をつけたりしている。それも生きがいというか楽しそうだから、何かの時には私を護ってくれと冗談を言いながら応援しているのだよ」
「それも良いが、たまには一緒にカリヤへきて、ゆっくり寛いでほしいな。気晴らしに国を離れるのも新鮮で楽しめると思うがどうだ?」
うむ、と今度はモリスが沈黙した。
「実はグラント王が、そのうち私と二人だけで他国へ遊覧に行こうと言われるのだが、アムランの問題もある。国情が落ち着けばよいがいろいろ考えると躊躇してしまうのだ」
「極秘にということだな。グラント王は恐いもの知らずの方だからね。たしかに他国がどんな状態か判らずに行くのは危険もあるだろう。何かの際にはこっそり知らせてくれ。役に立てると思うよ」
「うむ。しかし私はモリスにダイゼンの護りを頼みたい。どうもエンリ王子に心からの信頼が持てないのだ」
「判っている。いざとなればカムラ将軍家も強く出るだろうし、同盟国の結束もあるから心配はいらないだろう」
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