第2章 母国の人たち(3)

 アムランに戻ったアンリは、カリヤ公に教えられた城内の様子を想像しながら、トーゴの案内で無事にメイ妃と会うことができた。

ひっそりと暮らしているメイ妃は少し体調も悪いのか、長椅子に掛けたままだが、笑顔でカリヤ公からの見舞品を受け取った。傍らには姪だというルナという少女が付き添って、身辺の世話をしている。そろそろ女性に変身する年頃だが、可憐で人懐っこい感じだ。

近いうちに革命派が城内へ乱入する恐れはあるが、自分たちの仲間が護るから安心して任せてもらいたい。ついては脱出する秘密の入り口を教えてほしいとアンリが言うと、メイ妃は少し警戒ぎみに、信用したいがアンリはカリヤ公とどのような関係なのかと尋ねた。

「この髪と目を見てください。あなたの愛している大公に似ていませんか?」

え? とメイ妃は驚いて涙ぐんだ。大公は別の部屋にいてエミルが見張っているから会うこともできないのだという。そしてルナに「秘密の入り口を教えてあげなさい」と促した。ルナは親しげな微笑で「お兄さん、行きましょう」と手を差し出す。戸惑った表情のアンリに、メイ妃は

「ルナの兄は少し前に急死したのですよ。事故かどうか、私はモール一族の仕業だと思っているのです。とてもルナを可愛がっていたのに亡くなってしまったので、あなたを見て懐かしい感じがしたのでしょう」と言った。そうか、と手をつないで奥に入り、秘密の場所を確かめると、近くの林にある大岩の陰に出口があることも分かった。

 大公の姿も見たいと思ったアンリだが、疑われては面倒だ。メイ妃とルナに再会を約束して外へ出ると、トーゴもモール一族を見放しているのか「成功を祈るよ」と肩を叩いた。

すぐカリヤへ鳩を飛ばし、アムランにいるケイン補佐官にも連絡した。ジョウは荷馬車を林の中に待機させて脱出の準備を整えておくという。


アムランに着いたジョンを迎えたアンリは、アラセ長官やラウルに引き合わせた。

力強い味方が増えた、と長官は喜び、よく響く良い声をしているなとジョンを褒めて、早速同志たちを呼んで集会を開いた。若者たちがダイゼンに寄せる関心と憧憬の想いは強く、弁舌さわやかなジョンはたちまち敬愛の的となった。政治や経済の在り方や、世情や慣習も若者たちの興味を引き、数々の質問に淀みなく答える。若いとはいえ、ダイゼンで鍛えられたたくましい躰と、物事に動じぬ冷静さ、剣術も強いと知った人たちは、ジョンとアンリをアムラン改革主導者の上位に押し上げていった。期待に応えようとふたりも奮闘する。

腐敗したモール一族を叩き潰せ、国民が選ぶ実力と人格を有する者がまともな政治を行うのだ、という機運が高まり時期が熟してきた。


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