第1章 揺れる想い(4)
カムラ将軍家の結束は固い。副将軍となったセキトのこわもては兵士たちに緊張や忠誠を促し、一糸乱れぬ行進や整列は見事で誇らしい。ハヤト将軍はダイゼン王国を護る軍神として尊敬されている。
将軍の長男ホクトは王太子の側近く仕え、カムラ将軍家の後継者として厳しく鍛えられているし、次男ケントは比較的自由に行動しているが、もし王太子がダイゼンを離れるなら従いていくだろう。勇敢だが慎重な面もある好青年だ。三男ダイトは生まれたときから大きく、風貌も大物感があり、将軍の期待も大きいのだが、きちんと兄たちを立て、ホクトと一緒に王太子の警護をしてきた。
しかし、ここ一年ほどはエンリ王子に仕え、行動を共にすることも多くなった。堂々として臆せず、直言もするダイトにエンリ王子は気後れするのか、気にさわるのか、高飛車に反撃することもある。性格的に気が合わないらしい。
剣術の稽古でエンリ王子が足を滑らせ、「待った!」と叫んだときも、「敵は待ちませんぞ」と顔面に剣を突き付けたことがあり、血相を変えた王子が謝らなかったダイトに、「何様のつもりだ!」と怒鳴った…そんな話をあとで兄ホクトにしたダイトは、
「余裕を残して突き付けたのに、本当に刺す気かと思われたらしい」と嘆いた。防具は着けていたので危険がないとはいえ、王子という誇りを傷つけられたのだろう。
ホクトは弟を慰めながら、心の中で、(クロード王太子なら護りがいがあるが、エンリ王子は何をやるか判らないところがあるから心配だな)と不安を感じていた。
四男のタキトも兄思いで武術も得意だが、エンリ王子をどこか裏表のある人物だと注意している。特に母のアリサ王妃には良い息子を演じているように見えるのだが、気性の烈しさや、動物に対する乱暴な態度が気に入らない。王妃は何も気づいていないのだが…。
ダイトがすぐ上の兄ケントに、実はエンリ王子に「もし私がこのダイゼンの王になったらどうなるか考えてみろ、偉そうにするな!」と脅かされたのだと内緒話をすると、憤慨したケントはすぐホクトに相談し、五人兄弟そろっての話し合いとなった。
「王太子はどう思っておられるのだろう。軍事演習も何となく参加されているだけで、軍務に熱心とは言えない。積極的にダイゼンの王になりたいとは望んでおられないようだ」
「アン公女と恋仲だと言う話だが、アン公女はカリヤの華として人気があるそうだから、ダイゼンに輿入れさせることはないだろうな」
「しかしカリヤのような小国へグラント王が婿入りなど許されるはずがないと思うよ」
「王太子の意思でダイゼンを飛び出されたら仕方がないが、そうなったらどうする?」
「私は王太子に従って行く」とケントが言う。
「エンリ王子がダイゼン王になったらと思うと、ちょっと怖い気がする。無茶を言いそうで。たとえばカリヤを攻めようとか……」
「我らカムラ一族が王の横暴は許さないぞ」
「エンリ王子は王妃に自分の強さを誇示したいと思うかもしれないよ。兄より上位だと」
「しかし王と対立はできない。将軍家は王や国家を護る重要な地位を堅持しているのだ」
「それよりカムラ将軍一族が、エンリ王子の代わりに王朝を戴いてしまうのはどうだ?」
ダイトの言葉に兄弟は顔を見合わせた。
「世界には将軍が君臨して政治を行っている国もあるらしいよ」
「いや、偉大なダイゼン国の王の許で、絶大な権力と名声を保持していくほうが良い」
「もし王太子と王子が敵対したときは正しい方に味方しよう」
「正義を守ろう」
と、最後は護衛隊長を務める長男ホクトの言葉にみんなは納得した。
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