第6話

 あいつを殺そう。


 そう決めた。


 殺す人間は、大学時代に僕を馬鹿にしていたある人間にすることにした。


 その人物に恨みはないし、興味もないけれど――ただふっと、馬鹿にされたことに苛立ったので、殺すことにした。


 馬鹿にする方が悪いのだ。こういう時にふと思い出して殺したくなることくらい、想像できなかったのだろうか。


 今思えばそいつは、僕を確実に下に見ていたように思う。


 自分より下にいてくれるから、付き合ってくれていたのだろう。


 ああ――思い出すだけでも腹が立ってくる! 


 ノートに何度も、その人物の名前を書いた。


 そしてそのページをびりびりに破いた。


 それを何度も繰り返した。


 次のノートも、書いて、破いてを繰り返した。


 ここで名を明かすこともやぶさかではないが――個人情報保護もあるし、何より警察に先に勘付かれて、防衛されても面倒だ。誰かは書かないし、イニシャルも記載しない。

 

 ただあいつ――とだけ言っておこう。

 

 そいつは、何でも持っていた。

 

 僕には無いものを当たり前のように持っている癖に、僕から何でも奪っていった。

 

 そして何より、僕を馬鹿にした。

 

 ああ、もうそれを思い出すだけで、五百回。

 

 そいつを殺害する想像をしたように思う。

 

 殺したら――そいつは死ぬ。

 

 死ねば、きっと誰かが、そいつのために悲しんでくれるのだろう。

 

 そいつのために悼んでくれるのだろう。

 

 そいつのために泣いてくれる人がいる、のだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 僕にはそんな人、一人もいない。

 

 、人を殺したって良いんだ。

 

 そう思った。

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カラーレス 小狸 @segen_gen

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