異世界で植物採集をして生きていく

羊毛

一章:駆逐作戦と美味しいご飯

第1話ラベンダー採集と美味しいご飯



 俺は植物専門の採集師さいしゅうしだ、山や草原、植物と名のつくもののためなら海の中へも採集にいく。 


「ふー、そろそろ着くか。ここら辺は涼しいな…。街だとあんなに暑いのに。」


 今は7月の下旬、日が長くなり、屋外での活動が少し大変になってきた。


 しかし、こんな時だからこそ見ごろになる花がある、その名もラベンダー。


 勿体もったいぶって紹介してみたが、街でも村でも人気で有名な花だ。


「有名だからこそ毎年仕事があるんだよなぁ、ラベンダー様様さまさまだ。」


 最初にも言った通り俺は植物専門の採集師今年でこの仕事を始めて10年のまだまだペーペー。

 採集師を始める前は15歳までこことは似ているが違う世界にある「ニホン」と言う国でただの学生をしていた。


 魔物もおらず草むらで寝転がっていても命の危機がないあの世界が懐かしい。

 こちらに来てからは心優しい採集の師匠に拾われ5年ほどの間、店や採集の手伝いをしていた。

 5年前に一人前と認められ独り立ちしたのだ。



 しかし、独り立ちと言ってもこの世界は広すぎて新しいものが多すぎるためまだまだ学ぶことが多い。

 定期的に師匠には手紙という名の泣きつきをしているのは内緒だ!


 師匠から学んだ知識を使って今日も採集に向かう。


 今いるところは草原の真ん中にある街「フェーン」から出発し丸1日ほどの山岳地帯さんがくちたいだ。


 街に近いため魔物は出るが小物が多い。

 この山岳地帯の一角にラベンダーが生えているので、それを採集しに来た。


 ラベンダーは高温多湿こうおんたしつを嫌う種が多いため、採集できる山岳地帯は夏でも涼しく水はけがいいところだ、爽やかな気分になれる。


「おっと、ホーンラビット。」


 魔物は大なり小なり好戦的こうせんてきで向こうから向かってくることが多い。

 ツノを前に突き出し走ってくるホーンラビットを避け首にナタを振り下ろす。



「ホーンラビットくらいなら一振りで倒せるようになってきたな。」


 はぐれの1匹だけだったようだ、基本は群れでいることが多いがよかった。


「お、あったラベンダー畑だ!」


 山の頂上へ続く道の途中にあるラベンダー畑は3年ほど前に見つけた場所だ。


 ラベンダーの花のピークは7月中旬から下旬ごろなので採集時期には最適だろう。


「今年も採集させていただきます。」


 なんとなく声に出して挨拶をしておく。


 この世界には神や精霊がいるらしい、俺は見えないけど。

 こんなに綺麗なラベンダー畑なんだしきっとラベンダーの精霊がいるはずだ。


「よし、採集採集!」


 ラベンダーの花茎を根本から切り落とし何束かを持ってきた紐でまとめる。

 こうしておくことで家に帰った後は吊るして乾燥させるだけで売り物にできるってことだ。


 予定した数を集め終わった頃には日が沈んでいた。今年もラベンダー畑で一夜を明かしてから朝に山を下るか。


 花畑の真ん中であるため魔物避け用の火は起こさず持ってきた魔物避けのくすりを体と周囲にまく。


 基本1人の時は夜は寝ずに周囲を警戒しつつ日が昇ると同時に動いている。

 しかし、このラベンダー畑だけは別だ。


 やはり精霊がいるからなのか魔物が近寄ってこない。

 リラックスできる香りに包まれて寝ることができるのは最高だ。

 だからここのラベンダー畑と精霊には丁寧にしておくに越したことはないのだ。





 日が登ってきたのがまぶたを閉じていてもわかるような時間になった。

 街にいるときよりも熟睡したような気がする…。



 ラベンダー畑を立つ前にラベンダー畑に持ってきた肥料を少しまき、余分な枝や草をむしり。

 新たな種や差し技を追加しておく。

 こうすることで永続的にラベンダー畑の恩恵おんけいに預かれるということだ!


「次に来るのは花が終わった頃かな…また来ます!」


 誰もいないかもしれないが元気に挨拶をしておき花畑を後にする。

 ラベンダーを街に戻って商品にしなければいけないので仕事はまだまだたくさんだ。






 花畑を出発して途中の草原でさらに一泊して、無事街に着いた。

 普段ならこの草原で回復薬の素となる植物など「ニホン」にはない異世界特有の魔法植物や普通の植物を採集しながらゆっくり帰る。


 しかし、今回はラベンダーがたくさん取れたことと帰り道の途中で倒した魔物がアイテムバックを圧迫あっぱくしているため、草原では採集せずに日がある時間はずっと歩いていた。

はぁ、足に結構な疲労があるな…。


「やっっと帰ってこれた。ラベンダーを吊るしたら今日は寝るか…。」



 ラベンダーを吊るすのは天井付近に張り巡らせている紐だ。

 まとめたものをそのまま引っ掛けるだけの簡単な作業。


 俺の家は街の普通の家とは違い、これのために天井高めの家となっている。


 大きめの庭付き一階建て平家で師匠が独り立ちの時にプレゼントしてくれた魔道具搭載とうさいの最新のお風呂があるお気に入りの家だ。


 引越してきてまだ3年ほどのためまだまだ棚を増やしたり壁紙を変えたり、したいことが多い家だが居心地の良い最高の自宅だ。


 そんな自宅に採集してきたラベンダーをところぜましと吊るしていき、今日の仕事は終了。


 時間は昼を過ぎてもう夕日になりそうな時間のため早めの風呂に入って夕飯を食べたらもう寝ようと思う。


 夕飯は花畑から帰る途中で倒した魔物の肉だ。

 近くに川がなかったため花畑にいく途中に倒したホーンラビットは埋めてきてしまったが、帰りの草原で倒したイノシシ型魔物のスモールボアを解体して持って帰ってきた。


 肉はアイテムバックに入れているため1ヶ月ほどは新鮮なままだろう。


 今日は疲れが溜まっているためさっぱりとしたものを食べたい気分だ。


 スモールボアを薄切りにしてしゃぶしゃぶと湯がく。

 それを自宅の庭から収穫してきたレタスの上に盛り付けサラダにする。


 ドレッシングは迷うが、最近手に入れた醤油とオリーブオイルを混ぜ合わせ、そこにレモンを絞ったものを塩胡椒で味を整えて完成。食べる直前にかけよう。


 肉をのせているとはいえサラダだけはどうかと思うので、バゲットを切りその上にチーズをのせて焼いたものも用意する。


 ドレッシングを作った時にできたレモンの皮はハチミツと一緒に紅茶に入れてしまおう。


 夜ご飯にしては少し量が少ないが疲れている時に頑張り過ぎてもいけないよな!




「明日はスモールボアでカツにしようかな…少し生肉を残して残りは燻製肉を作らないと。採ってきたラベンダーは何にしようかな。とりあえず乾燥させてからだな。」


 やることはたくさんだ…。

 採集旅の間は硬いパンと燻製肉しか口にできなかったためあったかいものと新鮮な野菜が本当に美味しい。


 これのために仕事を頑張っていると言っても過言ではないな。





 満足のいく食事をしたらお風呂に入って数日分の汚れを落とし、落ち、落ちない…。

 手強いな!

 頭と体を洗うこと4回目でやっと綺麗になったので布団に入る。


 この家で唯一不満なのはこの布団だな、硬い!

 魔物の毛皮を張ったベッドの上に分厚目の毛布を敷いている。

 被るのももちろん羽毛布団ではなく大きめのタオルケットか毛布と毛皮という感じだ。


「ニホン」で暮らした記憶があるせいか硬い布団に抵抗があると言うか、ふわふわが大好きだった記憶が魂に刻まれていると言うか…。


 いつか綿で布団をつくりたいところ。


 まぁ今日のところは、

「おやすみなさい…。」

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