i」記録
【Count:i】
「君には諦める選択肢が与えられなかった。」
セル国南西部の丘にある一軒家。ソフィアは当たり前のようにそこで暮らしていた。本来はリリスという少女の家であり、彼女は今もここに住んでいるのだが、勝手に使わせて貰っている。そして今日、この家にはソフィア以外の客が来ていた。
「神災は終わらない。何度倒しても、次が現れる。……私は、神災は永遠に続くんじゃないかと思ってる。」
ソフィアが来客であるiに水を差し出すと、iはそれを一口だけ飲んだ。
「永遠なんてものは存在しない。私でさえも未だに見つけられていないんだ。あらゆることは、いつかは終わるのさ。」
iが立ち上がり、部屋を去っていく。
「またいつか会おう。今度はもう少しいい表情が見られるといいね。」
iと会話していた時間は数分のみだったが、とても重要な時間だったと実感していた。そのはずだった。
そしてソフィアは、この時間を忘れた。
【Count:1148】
気の遠くなるような遡行を経て、ソフィアは世界のおよそを理解した。
神災が神災として認められなかった場合、即座にあの謎の黒い影が現れる。影の事は終末人形と呼ぶ事にした。今までの神災とは違い、名付けられる人間がソフィアしかいない為、ソフィア自身がそう名付けたのだ。
第四神災から四年間何も起こらなかった場合も、終末人形は現れる。ソフィア自身が神災を生み出す事で、終末人形の出現を先延ばしにできる事を学んだ。第五神災としては、ナムフに巨大な魔法陣を展開する事で犠牲を出さずに神災と認めさせた。
死者が出ない神災を生み出そうとしたが、それは不可能だった。続く数百回の遡行で見つけた最も死者が少ない神災は、風の剣の持ち主であるナムフ国のアキを殺害し、剣からセレン=エウトの意識を剥離させる事だった。
第六神災終了後、第一神災である砂の都の被害地が拡大している事を知った。世界全土に広がり、世界は終焉を迎えた。第一神災前にアブヌ国を海中に沈める事で防ぐ事ができた。
同時に、アブヌを沈めた回ではヴィルを自らの手で殺さずとも水の剣の持ち手になれる事に気がついた。お互いに信頼する相手の殺害が継承条件だとは思っていたが、少し違うらしい。一度、剣の作成者であるセレンに剣についての質問をした。継承条件を満たす人間の殺害は加算式。親密な関係程値が高く、赤の他人では値は低い。それが一定値を上回ればよく、七万人も殺害すれば質に関係なく剣の継承条件を満たすようだ。後押しするように、最適解がソフィアに殺人を勧めている。
終末人形は人間の心臓しか狙わない事を知った。水の剣の持ち主となった後、自らの心臓をくり抜き剣に心臓の代わりを担わせる事で終末人形の攻撃対象から外れたが、代わりに第六神災でセレンにより心臓の動きを停止させられるリスクも負った。土の魔神、フィリスの弟子であるアスミにセレンを一度倒させる事で安定して第六神災の対処が出来ると判明した。
第七神災にはセル国南西部にある一軒家の家主を利用した。リリスという名前で、生まれつき自殺願望を周囲に撒く能力を持っていた故に辺境の地で生活をしていた。ソフィアは彼女をシキ国に向かわせた。後に、ソフィアはこの地を拠点にし始めた。……シキ国は壊滅した。第二神災以降、火の魔神が新たに現れる事は無い。シキ国の滅亡と共に、第七神災は終了した。
第八神災は偶然にも、都合の良い時期に勝手に訪れた。老朽化した魔石は意思を持った獣へと姿を変え、人間を襲い始めた。魔法の文明が最も進んでいるセル国が最も被害が多く、世界の人口が半分程度になった。セル国王宮地下の魔石工房に眠っていた人間と余っている魔石を全て処理したところ、被害は十分の一以下にまで収まった。
一次転生者についても、ソフィアは法則を理解した。遡行先よりも後にこの世界にやってくる一次転生者は、再び過去へ戻ると姿を消してしまう。遡行先よりも前にこの世界に来た人間、例えばアスミやアキ、テセラクト等は過去へ戻っても消える事は無い。決まった行動を取りたいソフィアにとって、不規則に訪れる一次転生者は計画を壊しかねない不安要素だった。エデニスから来る人間はテセラクトが処理している。それ以外から来る人間をソフィアは処理した。処理が難しい場合はなんとか神災に関わらせないように誘導した。
――そんな事を更に数千回以上繰り返しているうちに、この世界に"彼女"が現れた。
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