10」第五神災・ナムフの大魔法(1)

   【Day:1/454/8/31】


 ナムフ国首都、オーシン地方。


 国の中枢とも呼べるこの都市は、数年前と比べて異様な変化を遂げていた。セル王立魔法学校の分校が立ち、魔法の教育が進んだのだ。それまで富裕層の娯楽であった魔法も、今では国民全員に行き渡っている。街も他の大国と遜色ない程に発展し、成長が著しい。そしてそれを全て見渡せる城の屋上に、アキはいた。


 ――これが、私が求めていたもの。差別や格差のない社会。


「さて、この後はタツタさんたちと会議があってそのまま食事会。それから魔法学校の視察……。はぁ、絶対必須じゃないよね。」

 まるで国のマスコットだ。悪い気分ではないが。ちなみにタツタというのは、この国の現在の首相だ。ナムフ国には日本の民主主義と似たような事をやらせている。

「アキさん、出発の準備が出来ました。」

 背後からアキを呼ぶ声がする。アキの私兵の一人だ。

「うん。今行くよ。」

 そうしてアキがこの場所を発とうとした瞬間の事だった。


 空が曇り、赤い光が現れた。

「何、あれは……!?」

 宙に浮く環状の光の線。誰でもわかる。都市を包み込むほどの超巨大な魔法陣だ。

「アキさん、あれは一体……。」

「今日の予定は全部キャンセル。第二部隊を二つに分けてシキとイウティに報告。余裕があればミディ協会にも。第二部隊はセルの通信機を持っていくように。それから代表者たち全員を一階に呼んで。外に出てる人は帰還させなくていい。」

「了解です、アキさん。」

 落ち着いて、的確に指示を出す。アキが慕われているのは、彼女が優秀な指揮官でもあるという理由からも来ている。


 アキは魔法陣を注視する。複雑な模様が各所に散りばめられており、中央付近には二進数の数字が刻まれ、一秒毎にその値を減らしている。明らかに、何かの時間を表している。

「十九桁と半分くらいだから、えっと……、」

「四十三万秒、だいたい五日後ですね〜。」

 背後から声がしたためアキが振り返ると、そこには一人の修道女がいた。

「テセラクト? どうしてここに?」

「アレが急に出てきたもので、急いでここまで駆けつけたんですよ〜。」

 それにしては早すぎる。

「あれ、あなたと関係ある?」

「全く?」

 テセラクトを疑ったが、彼女は否定した。

「……そう。」

「それにしても大きいですね〜。直径は二キロ程度でしょうか。」

 テセラクトは不気味なほどに呑気なのだが、これが彼女の素なのだ。彼女は常に余裕を見せている。

「……えっと、まあ丁度よかったわ。あなたも会議に来て。ミディ協会として。」

「当然ですう〜。」




    ー    ー    ー




 王城一階の大広間に、ナムフ国の代表たちが集合した。

「直径は二キロメートル程で、城下町をほぼ覆い尽くしてる。テセラクトによると、九月五日の正午に、中央の数字がゼロになる。テセラクト、これは間違いないわよね。」

「はい〜、私の計算は正確なので〜。」

「となると、期限は五日か……。」

 五日後に、あの魔法陣により何かが起こる。

「まずはあの魔法陣の解読を任せたい。セルから魔術師を呼ぶべきだろうか。」

 大臣のタツタが周囲に意見を求める。

「それは私がやっておきますよ〜。」

 テセラクトが名乗り上げた。

「ただ〜、あそこまで大きいと大変なので〜、一人優秀な助っ人を呼びますね〜。それと、ナムフの魔法学校の教授も何人か欲しいですぅ〜。」

「手配しよう。異論は無いな?」

 タツタが返答を求める。反対意見は出ない。

「アキさんはどうします〜?」

 テセラクトが質問した。

「あの魔法陣、恐らく人の手によるものだと思うから、首謀者を探しにいく。見つけたらその場の判断で仕留める。」

「問題ないだろう。だが無理はするなよ。」

 タツタが賛同する。他の人も頷く。

「それと、念のためミディ協会で魔法陣の直下に住む人たちに避難の誘導を。情報統制はしなくていいわ。国民にはそのまま伝えて。」

「協会の人たちに言っておきます〜。」

「それじゃあ一旦解散。テセラクト、解析が済んだら全員を集合させて。」

「はい〜。」


 会議が終わり、部屋にはテセラクトとアキだけが残った。

「アキさん、見事ですね〜。国王の素質ありますよ〜。」

「いやよ。めんどくさい。」

「それでは、私も失礼します〜。」

 そうして、テセラクトも部屋を後にした。




    ー    ー    ー




 アキは一人で城下町はずれの廃工場に来ていた。かつては完全手動で工芸品を作っていたらしい。

(……やっぱりここが怪しい。)

 アキは魔法陣がこの場所から現れる瞬間を目撃していた。

「……誰か、いる?」

 人の気配を感じ、アキは慎重に進む。

(なんだろう、この感覚。)

 嫌な感じ、それでもって、どこか懐かしさを感じる。その二つが合わさり、非常に気持ち悪い。

「二つ目の機械の裏側、いるよね。出てきて。」

 アキの声が工場中に響く。……そして、アキが言った場所から一人の男が姿を現した。


「……な。」

「久しいな、魔法少女。」

 それは、ここに存在しないはずの人間。

「どうして……?」

 あり得ないものを見た。


「エイヴィ、どうして貴方が生きているの!?」


 エイヴィ=ライ。かつて魔法少女と敵対し、世界を混沌に陥れようとした組織のトップ。星乃璃によって倒されたはずの彼が、アキの目の前にいる。

「お前と同じさ、魔法少女。さて、続きといこうじゃないか。結局俺とお前は、戦う運命なんだ。」

「……あの魔法陣も、あなたの仕業?」

「知らないな。あんな低俗な仕掛けに頼らないのは、お前が一番良く知っていると思っていたが。」

 エイヴィは完全なる悪だが、嘘と小細工を好まない。彼が知らないといえば、本当に知らないのだ。

「……止める。あれとは関係なくても、このままあなたを放っておく事はできない。」

「いいねぇ、懐かしいよ。」

 エイヴィが右脚で軽く地面を叩くと、暗闇が彼を覆う。璃もまた、双杖を顕現させ両手で持つ。

「十三神具、ジェミニコア、起動。」

「十三神具、サジタリウスコア起動、――神具相殺。」

「なっ……!?」

 彼が取り出した真紅の弩には見覚えがあった。彼が最も愛用していた神具、サジタリウスコアだ。そして赤く輝くそれは光を失い、同時にアキの背中の翼も機能を失った。

「どうしてソレを持ってるの!?」

 神具相殺。様々な条件はあるが、神具は自らの力を封印する事で、別の神具の一つを無条件に無力化する事ができる。そして今、神具はその条件を全て満たしている。

「死の直前に持っていたから、だろうな。お前もソレを持っていただろう。普通であればお前を殺した人間の手に渡っているはずだ。それよりも、これでお前の神具は消えた。お前が神具をそれしか持っていない事は知っている。」

「……でも、見た限りエイヴィもその神具しか持ってないよね。弓に頼ってた貴方が私に勝てるの?」

 先程からエイヴィが余裕そうな笑みを見せている。璃はそれをなんとか崩そうとしてはいるが、エイヴィの表情は変わらない。

「以前と同じだと思うなよ、魔法少女。さて、見せてあげよう。私の新たな力を。」

 そう言うとエイヴィは、両手を上に掲げた。


「私はエイヴィ=ライ。十七席第十二継承者の名の元、権能"転写"を行使する。」


 途端、空間が歪んだ。




(一体何が……。)

「ははっ、素晴らしい、素晴らしいよ! これが世界を超えた力! まるで世界が玩具みたいだ!」

 エイヴィが歓喜する。世界が、バラバラになっていた。真下に真っ黒な穴が空いていて、アキとエイヴィは浮かんでいる無数の瓦礫の上に立っている。

「この周辺を私の法則で上書きさせてもらったよ。ここは私の世界だ。」

 エイヴィが腕を振る。アキの立っている瓦礫が崩れて消えた。

「わっ……!」

 慌てて近くにある別の瓦礫を掴む。

「この……っ!」

 左手で杖を振る。周囲の瓦礫をエイヴィに向けて飛ばしたつもりだったが、それらは途中で起動を変えて落ちていった。

「どうして……!?」

 途中で遮られた感覚はない。瓦礫はまだアキの制御下にあるのだ。アキはそれらを再びエイヴィへと飛ばした。

「無駄だよ。ここは私が歪めた空間だ。貴様は当たり前が通用しない事を理解すべきだ。」

 瓦礫は途中で消えた。

「私はこれから、人智を越えた力を使いこの世界を掌握する。闇に呑まれろ。邪魔者は全て排斥する。」

 エイヴィが消えた。次の瞬間、彼はアキの背後に現れ、彼女の首を掴む。

「がっ……!」

「……さよならだ、魔法少女。」

「ん……っ!」

 アキが杖から光の弾を出現させるが、それを撃ち込むよりも早く、エイヴィはアキを真下に放り投げた。飛ぶ手段を封じられた一人の魔法少女は暗い底へと落ちていった。


「……ふむ。一番厄介な邪魔者は消せた。それでは計画を続けるとしよう。」





   【Day:1/454/9/1】


 リエレアとアスミは極東の島国、ナムフに訪れていた。理由は当然、首都であるオーシン地方を覆うように展開された魔法陣。

「結局、内容はソフィアからは聞き出せなかったな。」

 魔法陣に関して一つ言えるのは、それはまだ展開されただけに過ぎず、発動はしていないという事。

(……それと、あれが発動したらまずいって事も。)

 各国の代表たちは既にこの魔法陣を第五神災・ナムフの大魔法と名付け、停止する術を模索している。

「テセラクトに呼ばれているから私は先に合流をする。リエレアは向こうで待機している協力者と魔法陣の解除を。不可能ならそれでいい。最悪の場合、私がそちらに行く。それと……。」

 アスミは続けて言った。

「アキが行方不明だ。協力者にも伝えておいてくれ。」




    ー    ー    ー




 魔法陣の中心に着いた。アキが消息を絶った廃工場だ。

「お前か、アイツの言ってた協力者って。」

 リエレアを待っていたのは、シキ国の四魔神。火の剣を持つウルだった。

「えっと……魔法陣を解除しろって言われたんだけど、私、何をすればいいのかな。」

「知らねぇよ。適当に殴るか?」

 当然の回答が返ってくる。

「あ、それと、アキさんを見なかった? 行方不明になってるってアスミさんが。」

「……マジかよ。俺は見てないな。」

「うーん、そっか。」

 ウルが空を見上げる。

「アレに何発か撃ってみたが、ダメだ。あの魔法陣には触れられねぇ。」

 どうやら立体に投影された映像のようなものらしい。ウルの放つ技は全てすり抜けていた。

「うーん、まるで私みたいだね。」

「そうだな。あ。」

 ウルが何かを思いついたようだ。そしてそれはリエレアも同じ。

「あれ、触れるのかな。ちょっと怖いけど。」

 立体映像みたいなものという点では、リエレアと何も変わらない。

「ちょっと触ってくるね。」

 そう言い残し、リエレアはその場から消えた。

「期待はしてないけどな。」



 そして数十秒後、リエレアはウルのところへ戻ってきた。

「無理でした。」

 リエレアは見事に魔法陣をすり抜けた。




    ー    ー    ー




「ウルさんって、アスミさんが嫌いなんだよね。」

 廃工場の周りを捜索しながら、リエレアはウルに尋ねた。

「当たり前だろ。それがどうした。」

「えっと、もし良かったらなんだけど、どうしてそこまで仲が悪いのか知りたいなって思って。」

「お前もかなりの変人だな。」

「えへへ……。」

「褒めてねぇよ。」


 ウルが地面に手をかざすと、土塊が盛り上がる。いつか見た、のべ二十体の土の人形が出来上がった。それらに簡単な指示を与えると、人形は四方八方に散っていった。

「オレはアイツが大嫌いだ。アイツは……、人の努力を盗むんだよ。」

「……うん。それは見たよ。」

 ウルが掌を上に向けると、赤黒い焔が現れる。

「オレのいた世界、リスフィアは、第五元素のエーテルを媒体に魔法を扱う。これはその中でも最高傑作、灰燼って呼ばれてる魔法を、更にこの世界の魔法と術式を繋げて完成させた、オレの全てだ。魔力消費量と威力の比が桁外れの、オレ自身が驚いた程のとんでもない代物なんだ。」

 ウルがそれを廃工場に向かって投げた。壁に着弾するとそれは一点に凝縮され、次の瞬間、爆音と共に工場が消し飛んだ。跡形もなかった。

 不思議な事に、爆風の外側には一切の被害が無い。瓦礫の一つすら飛んでいないのだ。

「攻撃の全てを固定された範囲のみに閉じ込める事ができるんだ。出力の無駄が無い。これが安定して撃てるようになるまで、一年以上は掛かった。……それなのにアイツは、この努力を無に帰すかのように盗んでいきやがった!」

 リエレアは第二神災でのアスミが最後に見せたものを思い出した。数千発の灰燼を模倣するのに、アスミは一切苦労していなかった。

 努力を奪われる経験をリエレアはしたことはない。しかしウルが酷くアスミを嫌う事に納得はできる。

「フィリスさんを殺した事はもういいんだ。アイツは嫌いだが、ちゃんと魔神としてやっている。……だからこそ、アイツが魔神の座に着いている事に腹が立つ!」

「……そう、だったんだね。」

 努力の横取り。ウルはアスミの力をそう感じているのだ。ウルがアスミを嫌うのは真っ当な理由であった。

(うーん、仕方ない事なのかな……。)

「でも、やっぱりアスミさんはそんなひどい人じゃないよ。」


「それくらいはわかってんだよ!!」


 ウルが叫んだ。悔しさを感じる怒号だった。

「寧ろアイツは善人なんだよ。悪魔的な力を持っていながら、いい奴ぶってるのが気にいらねぇ。オレがアイツの灰燼にキレたとき、アイツはこう言ったんだ! 「すまない、じゃあこれからは使わないでおこう」ってな。全く反吐が出る。優しさなんて要らねぇんだよ。あの反則的な力があるなら、どうせなら悪党として濫用してくれた方が気が楽だった!」

 気まずい雰囲気になったところで、ウルの人形の一体が戻ってきた。

「……おい、これって……。」

 見覚えのあるもの。その人形は一本の黄緑色の装飾がされたステッキを持ってきていた。

「アキさんの、だよね……?」

「ああ。ここにいたのは間違いねぇな。……待て、誰かいる。」

 ウルが消滅させた廃工場の奥を見て警戒する。

「アキさん?」

「違うな。もっと凶悪だ。……おい、出てこいよ。」

 ウルが呟くと、瓦礫の奥から一人の男が現れる。

「やれやれ、どうして私の前に立つ人間はこうも索敵に秀でているのか。」

 長身で黒いスーツの男。彼は悪人であるという特徴をこれでもかと醸し出していた。

「私はエイヴィ=ライ。いずれこの世界を支配する者だよ。……おや、それはあの魔法少女が持っていたものだな。痕跡を残してしまうとは、私もこの平和な世界に慣れてしまったらしい。」

 ウルが持っているステッキを見て言う。

「これを知っているのか?」

「私の宿敵だった者が持っていたな。もう居ないが。」

「……なあ、エイヴィとか言ったな。アキは生きているのか?」

 ウルが尋ねた。

「知らんな。そういえば生死を確認していなかった。失態だ。まあ、あの深淵の先がどうなっているかは私にもわからんがね。殺してから落とすべきだった。」

 彼はアキと戦い、そしてアキは負けた。それだけはしっかりと、残酷にも伝わってしまった。

「私は君たちには興味が無いのだが、どうだね? 邪魔をするのであれば処理をしておくが。」

「……アキを殺したんだろ? 黙って見過ごす訳ねぇだろうが。」

 ウルは戦う気でいる。

「ふむ、やはりそうだろうな。では君たちも処理するとしよう。……十七席第十二継承者の名の元、『転写』を行使する。」

(……十七席!?)

 エイヴィが呪文のように唱えたそのフレーズには、リエレアの知っている単語が含まれていた。しかしそんな事よりも。

「なんだ、これ……!?」

 急な景色の変遷にウルが驚いている。……だが、リエレアはそうではなかった。


「何か、変わった?」


 リエレアの目前に広がる景色は、何も変わっていない。

「……何だ、お前。」

 エイヴィが、リエレアを見て驚きの声を上げた。

「何故、私の世界に巻き込まれない!? 私の法則に従わない!?」

 ウルの視点では確かに、世界は渦状に歪んでいる。アキが経験したものと同様な光景が広がっている。しかしリエレアは違った。

「ウルさん。幻覚みたいなものだと思う。今何が見えてるかはわからないけど、私たちが立ってるのはさっきまでと変わってない。」

「……助かったぜ、リエレア。」

 ウルは黒い焔、灰燼を掌に出現させ、それを彼の目に映るエイヴィのいる方向とは違う向きに投げた。

 だが、それで良い。リエレアから見れば、それはちゃんとエイヴィに向けて投げられているのだ。

「……少々、この世界の人間を侮っていたようだ。」

 当然ながら、エイヴィは灰燼を避けた。

「そして、私はこの力を過信していたようだな。」

 エイヴィは標的をリエレアに変更し、リエレアへと駆けた。

「脆そうな君から仕留めるとしよう。」

 エイヴィはリエレアの首を掴もうとし、……その手は当然、何も掴んでいなかった。

「掛かった。」

「……やられたよ。君自身が存在していなかったとは。」

 少しの迷いや混乱さえあればいい。体制を整えようとするエイヴィを、リエレアごと灰燼が襲った。




「倒した?」

 エイヴィの姿は見えない。

「知らねぇよ。おいリエレア、咄嗟の判断でお前に向けて撃ったが、ちゃんとアイツには当たったか?」

「えっと……景色、どう?」

「戻ってるな。」

「……じゃあ当たったんじゃないかな。うーん。」

「何を悩んでるんだ? お前は。」

「いや、こうもあっさり倒せるとは思わなくて。」

 仮にもアキを倒した男だ。一瞬で勝負がついてしまった事に対し、リエレアは少し懐疑した。


『ウル、そこにリエレアはいるか?』

 当然、ウルの持っていた通信機から声がした。アスミの声だ。

「だったら何だよ。それと急に喋るな。」

『いるんだな。何か収穫はあったか?』

「変な奴と交戦した。ああもう、説明は全部リエレアに任せるからな!」

 ウルは通信機を投げ捨て、黒い焔でそれを焼いた。

「……本当に、仲悪いのかな。」

「悪い。」




    ー    ー    ー




 ナムフの王城に、再び主要人物が集合した。ウルはアスミと会いたくないという理由で外の捜索を続けている。

「さて、ある程度は揃ったな。」

 ナムフ国の主要メンバーの他には、アスミと私だけ。

「あの魔法陣について、我々解析班から報告がある。」

「あれ、アスミさんってこの世界の魔法に詳しくないんじゃなかったっけ。」

 アスミはこの世界の魔法を模倣する事でしか扱えない。彼女が解析グループにいたのはリエレアにとって予想外だった。

「これでも元理系の大学教授だ。ある程度の術式は読めるようになったし、それに優秀な助っ人もいた。」

 どうやら本当に手伝っていたようだった。

「それじゃあ報告するぞ。簡単に言うと、あの魔法陣は土属性、転送の魔法だ。それと、中央で刻んでいるあの時間は追記されたものだ。魔法陣の発動に時間が掛かるんじゃない。あえて先延ばしにしてるって事だな。中央の数字さえなければ、あの魔法陣は即刻発動していた。」

 魔法陣を展開させた人間は、敢えて発動を遅らせる術式を陣に組み込んだのだ。

「水属性じゃないんだ。」

 リエレアが疑問に思い、アスミに質問した。転移の魔法は水属性に適性があるという話は以前聞いた事があった。

「土属性は巨大な術式の構築に便利なんだ。多少不利でもあそこまで巨大なものは土属性が一番安定する。」

「それで、肝心な術の内容は何だ? 本当にただの転送なのか?」

 話を遮り、首相のタツタが質問した。誰もがそれが気になっている。

「術自体は単純なものだ。特定のものを飛ばす機構は無い。ただ二つの空間を繋ぐだけだな。今はあの魔法陣がどこに繋がっているかをテセラクトに調べさせてる。」

「ただいま戻りました〜。」

 言ったそばから、入り口の方からテセラクトが現れた。

「テセラクト、何かわかったか?」

「はい〜。あの魔法陣の向こう側もしっかり発見しましたよ〜。ただ、向こう側に行くのは流石の私でも無理ですね〜。」

「珍しいな、テセラクト。お前にも行けない場所があるのか。」

「はい〜。」

「それで、向こう側は?」

 アスミに催促され、テセラクトは告げた。



「向こう側は二十二年後のセル国ですね〜。」

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