3」Uiteys-帰海-A/N-3

   【記録:1】


 イウティ国王宮、魔神の塔、屋上。

 屋上と言うよりかはただの屋根の上だが、そこに私は立っていた。


 ――景色が良い。


 都市全体を見渡せるここは、私のお気に入りの場所の一つ。今日も平和に、街は廻っている。景色を充分に堪能した後、……私は屋根の上から飛び降りた。背を地に向けて。

 数秒後、私は地面に仰向けに激突する。音は立たず、地面は全く抉れない。そして、当然私も無傷。

「……何をしてるんだ?」

 偶然通りかかった兵の一人が、変なものでも見るような顔で私に話しかける。

「……何やってるんだろ、私。」

 仰向けに倒れたまま、自問した。答えは出なかった。

 私は日記の最後のページに、今起きた事を書き残した。




   【Day:1/452/8/11】


 転生から二年後、夏、正午。

 イウティ国王宮内、会議室、計十二人。


「私が呼ばれた理由がわからないんだけど。」

 リエレアが周囲を見渡す。国王をはじめ、各機関の偉い人たちが揃っている事に疑問を感じた。……ほとんどは初対面な為、「多分偉いだろう」程度の考えだが。そして当然、そこには魔神アスミや騎士隊長アインの姿もあった。そんな中、リエレアは目の前にいる議長である国王に問いかけた。

 無礼極まりない態度だが、ここ数年のうちに国から見たリエレアの評価は変わっていた。対等、これに尽きる。リエレアはその特性上、誰の上にも誰の下にも就かない選択を取っていた。国王ともアスミ経由で何度か会話している。

「ああ、君を呼んだのは私だよ。私の特権で君の席を設けてもらった。光栄だろう?」

 国王が答える代わりに、横からアスミが言った。

(面倒なんだけどなぁ。というか、特権というよりはただの我儘……。)

 全員が揃った事を確認し、国王が口を開く。

「事前に知らせている通り、二日前に一つの国が消滅した。場所はアブヌ。イウティの南東で海に面しているその国が、一夜で完全に海中に沈んだ。」


 ――知らせている通り?


 そんな話は聞いていない。しかも今回の話は重過ぎた。国一つの消滅。余裕で教科書に乗る規模だろう。リエレア以外の人間が全く驚いていないのを見るに、本当に話は全員に行き渡っているらしい。

「調査隊を出す。リエレアにはローレンと共に先に調査に出て欲しい。」

「私も行こう。」

 国王がリエレアを指名した後、アスミが続けて言った。

「今回ばかりは留守はアインに任せる。私の勘、というかほぼ推測可能な事実だが、今回の国の消滅は人為的なものだ。単独犯だとは思えないが、もしそうなら私に並ぶだろう。隊は不要だ。アインはともかく、他は足手まといになる。」

(珍しくアスミさんが頼もしい。)

「四魔神の誰かが犯人だと、そう言いたいのか?」

 国王がアスミに問いかける。

「その線は薄い。国の沈没なんて芸当、四魔神の中でも私くらいしかできないだろうからな。……あ、当然だが私は今回の件は無関係だぞ。そもそも動機が無い。それともし単独犯だった場合、相手は私より強い。」

 一同が動揺した。大陸の頂点に立つような存在が言うのだから、その規模がはかれるだろう。


「話は以上ですか。」

 少しの沈黙の後、神官らしき人が質問した。伝える事は、全て伝え終わった。

「ああ。それと、ローレンは来ていないのか?」

 国王が周囲を見渡す。リエレアはローレンという人間に会った事は無いので、彼がどんな容姿なのかを知らない。

 アスミが口を開けた。

「ここにはいないと思うが、この話は聞いているだろうから心配は要らない。アイツはそういう奴だ。人見知りなんだよ。……今言った通りだ。ローレン、先に行っててくれ。私とリエレアは後で向かう。」

 アスミが虚空に向けてそう言った直後、唯一壁に寄りかかっていた男が一瞬でその姿を消した。

「えっ……?」

「どうした? リエレア。」

「いや……、なんでもないよ。」

(……誰も、気付いてない?)

「私も先に向かうよ。すぐに飛べるし。」

「助かる。場所は地図で示した通りだ。」


 一人先に会議室を出て、ふと思い出した。

(そういえば私、国王さんの名前知らないや……。)



    ー    ー    ー



 アブヌ国。四魔神の属する国からすれば小さいが、その他の国として纏めるには少し規模が大きい。それくらいの国だ。三十分後、リエレアはアブヌ国があったとされている場所の前まで来ていた。少し遅れたのは、最近仲良くなった町の男の子から落とし物を探してと頼まれたからだ。……ちなみに本人のポケットの中にあった。


 どこまでも続いている海岸。

 不自然に地形が抉れてできたような崖。

 あまり整備されていないがある程度整っている道は海の方へ続いていて、崖で切れている。

 何もなかった。この先に道が続いていて、つい先日まで一つの国が存在していたとここに始めて訪れる人間に言っても誰も信用しない程に。

 リエレアは、付近の木に寄りかかっている低身長の男に声を掛けた。

「あなたがローレンさん?」

「先程、会議室内で俺が見えていたな。」

 どうやら普段は魔法で姿を隠しているらしいが、リエレアは彼を常に観測できるらしい。

「えっと……ごめんなさい?」

「わからない奴だよ、お前は。」

 強い力を持つ人間ほど、リエレアを疑いの目で見る傾向にある。

「何か見つけた?」

「セルで桁外れの力を持った二人組を見つけた。ここ数ヶ月の間にやってきた転生者だ。アブヌ沈没と関係あるかもしれないが、近づくのはアスミが来てからだな。アレらは危険過ぎる。」

「なら、もう近づいてもいいな。」

 リエレアの後ろから声がした。当然というべきか意外というべきか、アスミの姿があった。

「本体を見るのは久しぶりだな、ローレン。いや、もしかするとその身体も本体じゃないのか?」

「さあ、どうだろうな。それよりも随分と早いな。アスミにしては。」

「お前の転移程早くはないが、この距離なら数分あれば届く。それでローレン、お前が言っている二人はアイツらか?」


 アスミが遠くを向く。――いつのまにか二人の人間が、道の奥からこちらに向かって歩いてきていた。このあたりには他に何も無いので、間違いなくリエレアたちに用がある。

 片方はかなりの長身で、帽子を被った黒衣の男。そしてもう一人も黒いゴシック系の服に身を包んでいるが、彼とは対照的に小さな少女だ。背はアスミと同じくらいだろうか。金髪なのも共通しているが、アスミとは似ても似つかない。そして彼女が軽そうに握っている、彼女の背よりも大きな鎌が、彼女が異質であると語っていた。そしてアスミとローレンは、二人を見るや否や警戒心を強めた。

「……おいおい、アイツらさっきまでセルの北端にいたぞ。」

 セル国。都市部はここからは少し遠かったはずだ。

「……アイツらは、危ない。」

 二人は構えているが、リエレアにはやってくる二人がそこまで危ない存在には見えなかった。そして間も無く、お互いは互いに会話ができる距離まで近づく。彼らが足を止めた。


 ――無言。


 お互いに用件はあるのだろうが、それでも警戒が続いている。


 ――焦ったい。


 向こうの少女が一歩前へと出た。

「はじめまして。私はアディ。そこの大きいのはアノン。よろしくね。」

 笑顔の彼女からは全く感じとれないが、他二人の警戒が解けないのを見るに危ない人なのだろう。

「よ、よろしく……。」

 リエレアも一歩前に出た瞬間、彼女の奥にいる男――アノンと呼ばれた男が口を開いた。

「珍しいな。アディが殺意を最大まで剥き出しにして接しているというのに、顔色一つ変えない。やはり想定通りかそれ以上だよ。」

「へっ?」

「あなた、もしかして鈍感? 気づいてない? おかしいわね、私の威圧は例外無く全員に効くんだけど。」

 リエレアが振り返ると、二人は警戒を一層強めていた。

「その辺にしておけ、アディ。私たちは争いに来た訳ではないだろう? それに、後ろの嬢さんは今の私よりは強い。」

 黒の男がアスミを見て言った。

「謙遜しておくよ。その少女は当然だが、君にすら勝てないだろう。ローレン。少し外して貰えるかな? 君にはこの近くを通る人間の軌道を変えて貰いたい。」

「了解した。」

 ローレンがその場から消えた。……のではなく高速で飛んでいったのだが、恐らく誰も見えていないだろう。




「さて、アノンとアディと言ったな。」

 アスミが、二人を見て言った。表情からわかる。今のアスミは、ひどく怒っている。

「二十年振りになるな。代行屋。今度はこの世界も壊すつもりか?」

「……ここにその名前を知る者はいないはずなのだがね。それに、その名前はかなり昔に捨てたさ。」

 アノンが少しだけ驚いた様子で言った。


 ――代行屋?


「事故で死んだと言ったな。あれはとんでもない事故だったよ。私の世界は、あの二人に消された。」


 ――世界を消した?


 アディが口を開く。

「貴方、別の世界から来たのね?」

「いつか君たちが滅した世界からね。」

「覚えていないわ。停滞から救った世界の一つ一つなんて。それにここ数百年は世界は消していないわよ?」

 今にも喧嘩が始まりそうだ。

「アスミさん、落ち着いて……。」「落ち着け、アディ。」

 私とアノンがそれぞれを静止させたのは、意外にもほぼ同時だった。お互いが構えを元に戻す。

「それで、こんな事をした理由を聞こうか。」

「こんな事? ああ、確かにさっき一悶着あったけど、それはこっちの勘違いだったから大丈夫大丈夫。謝罪もしたし気にしないで?」

「一悶着で国を消す奴がいるか。」

 アスミのその言葉に、アディが困惑する。

「国? あ……あれ? あ、ちょっといい? もしかしたら誤解してるかもしれないから言うんだけど。えっとね、ここにあった国を沈めたのは私たちじゃないよ?」

 アディが言った。


 ――え?


 リエレアとアスミが固まる。

「そうだな。我々の基準は人か世界かだ。特にアディは、国一つを消す程器用な思考は持ち合わせていない。」

 アノンも同意する。

「失礼ね。」

「じゃあ、用件は何だ。」

 アスミが質問すると、アノンはリエレアの方を見た。

「我々は君に用があるのだよ、リエレア=エル。私は君を誘いに来た。」

 ……そして意外にも、彼はその名を呼んだ。

「私を……?」

 彼はリエレアという名を知っているらしいが、リエレアは彼に会った事は無い。そもそもリエレアは自分の名前が本当に自分のものであるかすら知らない為、リエレアという名前を呼ぶ事自体が異常だった。

「君には資格がある。」

 アノンはそう言うと一瞬でリエレアの前に立ち、リエレアの肩に手を置いた。瞬間、景色に変化が起こった。



    ー    ー    ー



「……ここ、どこ?」

 床を含め一面真っ黒な空間に、白い椅子が向かい合うように二つ。しかしそんな事よりも。

(私に……干渉できてる?)

 アノンはリエレアをここへと移動させた。それ以前に、肩に触れられた感触が残っている。

 そしてこの空間には、リエレアとアノン以外は誰もいない。彼が連れていたアディさえも、ここには居ない。

「さて、誰も居なくなったところで改めて自己紹介といこう。私は"十七席"第三、アノン。世界を内側から俯瞰する者だ。現在は、停滞した世界の処理を担当している。」

 彼がリエレアから離れて勝手に椅子に座り、リエレアを招く。誘われるまま、リエレアは向かいの椅子に座った。

「実際に、見てもらった方が早いだろう。」

 アノンが指を鳴らすと、景色に変化があった。


 少し洒落た喫茶店の、窓際の席。

「ここは……。」

 リエレアはここに来た事は無いが、ここがどのような場所であるかは知っている。

「日本?」

「ああ、その通りだ。そしてここは、遥か昔に停滞してしまった世界の再現だ。君のいた世界に近い種類のものを用意した。」

「停滞……?」

 リエレアたちの横をアルバイトの店員が通った直後、その人が消えた。……そして全く同じ人が、店の奥にいた。

「タイムトラベル。この世界は、一人の愚者による時間遡行の実験により、この二分間を永遠と繰り返していた。だから我々が消した。」

 少し待つと、再びアルバイトの店員がリエレアたちの隣を通る。……そして、全員の位置が二分前に戻る。

「先程のあの少女は確か、アスミと言ったな。恐らく彼女が以前いた世界も、ここよりは長い周期だっただろうが停滞が起こっていたはずだ。私は決して無意味に世界は壊さない。」


 再びアノンが指を鳴らす。先程までの情景から変わり、リエレアは森林の倒木の上に座っていた。

「この世界では既に人間は絶滅していた。星の寿命が近いこの世界からはもう新たに生まれるものは無い。当然我々はこの世界も削除した。」


 再び、彼は指を鳴らした。リエレアたちは二つの白い椅子の空間に戻っていた。

「あの、質問してもいい?」

「構わない。」

「私を元の世界に帰す事ってできる?」

 この空間に連れてこられたときに思ったのだ。リエレアは、彼が少なくとも世界の枠を越えて存在できていると確信している。

「我々十七席としての視点からすれば、今の君の状態を考慮してもなお容易だろう。まだ君の世界が残っていればの話だが。」

 とても軽い口調で、特に何か考える仕草も無く即答された。可能だと。

「但し……、」

 そして一呼吸置き、続ける。

「私には不可能だ。仮に君を届けたとしても、今の君には器が無い。到着した直後に、……精々五秒くらいで君は霧散するだろう。それに私は君のいた世界がどこにあるかを知らない。確かに十七席は君が予想する以上の存在だが、我々は神様ではない。現に私の力をもってしても、君に変更を加える事はできなかった。」

「でも……、あれ、じゃあここに連れてきたのは?」

「君以外の全てを動かしただけだ。世界ごとな。」


 スケールが違う。


「君の肩に触れたのも、君が"触れられた"と思ってしまったからに過ぎない。私はただ、君の肩に接する地点で手を止めただけだ。」

 アノンが先程と同様に、リエレアの肩に手を乗せた。リエレアは触れられた感覚があったが、次の瞬間、アノンはその手を下に振り下ろした。リエレアの肩の感覚が消え、その手はリエレアを貫通した。

「世界に干渉できない君の性質は、君があの世界に飛んだ際に世界から君に与えられた力ではない。私でさえ君については不明瞭な点が多いが、少なくとも君については逆だ。失っている事による性質、と言い表せるだろう。」

「ええっと……ううん……。」

 理解が苦しくなってきた。

「私の推測は全て推測に過ぎない。忘れていい。それよりも本題に戻ろう。我々のところに来ないだろうか?」

 あの世界を離れ、彼らについていく。

「……ないね。まだあり得ない。」

 少し考え、リエレアははっきりと言った。

「そうか。君の状態を知る人物に会わせる事も可能だが。」

「それでも、いいの。私……私自身のこと、一番よくわかってないけど。それでも大丈夫。知りたいって思う気持ちもあるけど、今はあの世界の人たちと過ごしたい。」


「……そうか。なら、仕方ないな。」

「結構あっさりと諦めるんだね。」

 アノンはそれ以上、リエレアを勧誘しようとはしてこなかった。

「さて、私は君の勧誘に失敗した訳だが、そうなるとひとつ、君自身に問題が生じる。」

「問題?」

「世界群には常に一定の方向に力がはたらいている。この流れを感知できない人間が別の世界へ移るとき、必ずその力の方向へと移動する。そしてこの世界は、力の流れの中心に最も近い世界であり、同時に最も多くの人間が流れてくる場所とも言える。」

「それで、問題というのはなに?」

「外からこの世界に流れた人間は、最大でも三十年以内に消えている。例外は無い。だからこの世界は、世界群の中心と呼ばれているだけでなく、虚無の墓場とも呼ばれている。……これの所為で我々十七席のうち何人かも間接的な被害を被ったものだ。恐らくは君も……、世界に長居していればいつかは消えるだろう。それでも君は、あの世界に残るのか?」




    ー    ー    ー




 リエレアは気が付けばアスミたちのいる元の世界に戻っていた。

 結局、アノンの問いに対しては保留という答えを出した。彼はまたいつか答えを聞きに行くとだけ言い、リエレアをこの世界に戻した。


「リエレア、何があった。」

 アスミがリエレアに尋ねる。

「私、どれくらいの間消えてた?」

「数秒だな。ほぼ何もしていないに等しいが、リエレアはそうじゃないみたいだな。」

 アノンとの会話は、アスミには秘密にしておく事にした。

 

 再び、アノンたちと対峙する。

「アノン、用は済んだの?」

 アディが質問する。

「ああ、断られてしまったよ。では我々は失礼する。時間は無限に存在しているが、我々は暇ではないのでね。」

 アディが鎌を振ると、空間が裂ける。

「リエレア、また会おう。」

 直後、亀裂と共に二人は消えてしまった。


「帰ろう。収穫は無かった。」



    ー    ー    ー



「久しぶりだね、セレン。」


 王宮地下に広がる独房の最下層。現在は一人しか収容されていないが、アスミはその一人に会いに来ていた。ここは犯罪者の中でも特に酷い罰を受けた者や取り扱いが難しい者たちが収容される。

 牢の中にいるのは、セレンと呼ばれたアスミと同じくらいの背の黒髪の少女。そしてこの空間には、魔法の使用を制限する仕掛けが施されていた。理由は不明だが、恐らくセレンを封じる為だろう。


「気分はどうだい? 半年振りだから退屈だっただろう。」


 アスミ自身、セレンの事はあまり知らない。先程述べた通りの容姿だが、彼女はアスミがこの世界にやってきた時には既に収容されていた。

 彼女は不老だったが、アスミ自身にも当てはまる為にあまり珍しさは感じない。実際の収容期間が人の一生の平均に届いていないのか、または百年以上ここに収容されているのかもわからない。

「何か食べるかい? フィリスが君をどうしてたかは知らないけど、幾ら不老不死とはいえたまには食事くらいは摂っておくべきだと思うんだ。」

 少女は黙ったまま、じっとアスミを見続けている。アスミはパンが入った袋を少女に渡した。

「そろそろ話してくれないかな。君はいつからここにいて、ここに来るまでに何をしていたのか。」

 誰も彼女の罪状を知らない。ただ言える事は、来年に刑期が終わる事だけ。

「私が君を知ってから十八年経つ。当時は驚いたね。まさかこんな空間が存在していたなんて。私でさえ、フィリスに言われないと気づけなかった。一体誰がこんな施設を作ったんだろうな。」

 少女はやはり、黙ったまま。しかしこれはいつもの事だ。アスミがここに来るのは何度目かはわからないが、少女が言葉を口にしたのは数えられる程だった。

「今日は色々あったよ。小国が沈んだり、世界の外側からの知り合いに会ったり。忙しかった。……駄目だ。会話が続かない。明日ローレンにでも会話のコツを聞いておくかな。」

 アスミがそう言って、後ろを向いたとき。


「……ローレン?」


 セレンがその名前に反応した。

「何だ? 知ってる名前か?」

「ローレン=エウト……?」

 ――それは、紛れもなく、イウティ国の参謀、ローレンのフルネーム。

「知り合いか?」

「ローレンが、まだ生きているの?」

 先程とは打って変わり、少女の瞳に光が宿っていた。

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