第4話 日本語は、表音と表意を混ぜて使う世界でも稀な言語
なぜ倭の国は文字を持たなかったのか
この答えの結論は、文字を持つ必要がなかったからである。
それなら、なぜ中国が文字を持ったのだろうか。
それは戦争をするために連絡手段が必要だったからだ。
文字の必要性
漢字の歴史は、中国大陸の王朝で使われ始めた甲骨文字だといわれている。
つまり、占いを書きとどめる記号からスタートしている。
甲骨文字は記号の域をでる事はなかったらしく、その後文字として体裁を整えるのは約3300年前といわれている。
そして中国大陸に大きな国が出来た時、戦争のための伝達手段として、文字は開発されていったという説がある。
中国大陸に紀元前1046年周という国が出来た時、まわりの勢力に文字入りの食器を送っている。そこには、「お前の国を守ってやる」とか、「あの国を攻めろ」などの約束事が書かれていた。
多民族国家である中国は、多種多様な言語を持つ民族の寄せ集めであり、その為の意思伝達手段として、表意文字である漢字を活用したのだ。
漢字のスタートは、占いから始まり、戦争で活用されたのだ。
それなら日本はどうだろうか。
縄文時代は、紀元前131世紀頃からはじまり、紀元前10世紀ほどまで続いた世界にも稀な時代である。
縄文人の血をひくと言われているアイヌの人々や沖縄の人たちには、当然言語や文化は存在している。
だから当然、話し言葉(縄文語)はあったが、文字は持たなかった。
なぜかというと、必要なかったからだ。
また島国であり、極端な異民族は存在していないし領土も狭い。つまり文字が必要になるほどの、差し迫った事情がなかったのだ。
文字がなければ、何も伝わらないと思い込むのは現代人の思い込みである。
例えば、畑仕事を教えるのに教科書は必要だろうか。家を建てる方法を伝えるのに、文字は要るだろうか。現代でも、共に作業していく事で、知識は伝わっていくのである。
日本の土器
特に縄文人の制作物は芸術性にあふれている。あの土器や土偶は、まさに文字の代わりになりえるマルチメディアである。
私は、縄文の創作物が全て「文字」だったと考えている。
表音文字と表意文字
文字というのは「表音文字」と「表意文字」に分かれる。
漢字は表意文字である。
ヨーロッパのアルファベットは表音文字だ。メソポタミアの古代文字は取引、つまり商売のために作られたと言われている。
なぜ中国で表意文字の漢字が流通したかというと、中国大陸には、風俗や言葉の違う民族が沢山いたためである。
言葉は通じなくても、字自体に意味があるほうが伝わりやすかったからである。
ヨーロッパは表音文字である。
なぜ、ヨーロッパは表音文字になったのか他説があるが、アジアほど民族の違いが少なかった事と、文化レベルが極端に違わなかったこと、言葉が極端に違わなかったことがあげられる。
表音文字には意味はないが、発音は伝えられる。発音がわかれば、意味が通じやすかった世界だとも言える。
ヨーロッパでは、言葉で交流が始まり、中国は字を見て交流が出来たと言ったところだろう。
日本製の漢字
漢字は日本の中でしっかりと根付いている。
日本に入った漢字は独自の発展をしていき、読み方も音と訓があり、平仮名カタカナが誕生している。
現在では、日本独自の漢字も多く、働・込・枠・匂・畑・辻などは日本だけの文字である。
さらに意味もちがう。
中国で老婆と書くと、くだけた言い方の妻の意味である。愛人は正式な妻。日本の調理師は料理人、中国で調理師というと動物の世話係か調教係。娘は母親。脚気は水虫。手紙はちり紙、便所紙・・・。
などの違いもり、単純に文化の違いである。
又新しい概念の言葉や外来語など、日本で出来た単語は、逆に中国で多く使われている。
歴史・民族・国家・宗教・信用・自然・侵略・手続・取締・取消・引渡・目的・宗旨・代表・代価・現金・譲渡・国債・基準・場合・伝統・継承・基地・元素・要素・学校・学生・警察・派出所・憲兵・検査官・写真・法人・保険・常識・強制・経済・幹部・鉛筆・出版・支配・哲学・理想・作用・新聞・図書館・記者・社会・主義・野蛮・発起・革命・思想・運動・計画・金融・交通・現実・会話・反対・原則・人道・演説・文明・広場・人民・工業・意識・論文・解放・進歩・義務・意志表示・債権人・損害賠償、
これらの文字はすべて日本人の発明である。
現在、中国で使われている漢字の7割が日本由来と言われている。「中華人民共和国」という国名でも、中国の漢字は「中華」だけで、「人民」も「共和国」も日本発祥の文字である。
外国語を勝手に日本語風に読む和製英語も多く、日本人の言葉に対する柔軟さは、すごすぎる側面もある。
漢字の廃止
漢字は、韓国、北朝鮮、ベトナムも使っていたのだが、現在ではみんな漢字をやめている。
理由は漢字そのものが中国文化への従属の象徴と見なされるようになった為だ。
実は日本でも、再三「漢字廃止論」が出されていた。江戸時代末期頃の前島密は、漢字を廃して平仮名を国字にしようとするものだった。
また、明治前期は言語改革論議が行われ、音標文字論にはローマ字派、かな派(ひらがな派、カタカナ派)、独自の文字(新国字)によろうとする者などの意見があった。
戦後ではGHQの発案で、日本語をローマ字表記にしようとする計画が起こされた。
しかし、日本の驚異的な識字率の高さを知り断念している。
結局、日本人は漢字の便利さを知り尽くしていて、オリジナルの平仮名、カタカナを混ぜて使う事で、独自の方向に進んでいった事と、一般人の識字率の高さにより、結局そのまま日常で使う道を選んでいる。
しかしベトナムや朝鮮は、漢字が一般人まで広まっていなかった。それは漢字を覚えるのが大変だったからである。
だから、漢字を廃止できたのである。
それほど中国人の使う漢字は難解だったのである。それは漢字の国、中国の識字率をみればわかる。中国の発表では識字率は95.9%といっているが、どう見てもそんなに高いとは思えない。文化放送で、中国の識字率は3割くらいと言っていた。
良くても半分は文字の書けない人はいるだろうと予測されている。
漢字はやはり難しいのだ。
しかし、ベトナムや朝鮮では、過去漢字を使っていたので、漢字を廃止すると歴史書も読めなくなってしまう。
そこで北朝鮮は漢文教育を実施しているし、ベトナムでは国文学を専攻した一部の層や仏僧、中国語の学習者等は存在している。
韓国は全ての漢字を廃止している。
韓国の学術文献の90%は漢字で書かれており、多くの学生が、漢字レベルが低いことにより文献を読むことができないという悲惨な状況と聞く。
一部の文化人は漢字復活を唱えているのだが、現状はハングル文字一辺倒になりつつある。
韓国では、伝統的に名前は漢字なのだが、それも読めなくなってしまう。名刺交換しても、漢字で書かれているので自分の名前がわからないという、笑い話のような混乱もあるという。
ハングルの歴史
呉 善花(オ・ソンファ)さんという小説家がいる。済州島出身で日本に帰化している評論家である。その人の話を紹介する。
現在、韓国では漢字の表記はない。
呉 善花女子が言うには、学校で元素記号を覚えるときHはsuso、Oはsansoと覚えるのだが、日本に来てHは水素(suso)、Oは酸素(sanso)だと始めてわかったという。
笑い話のようだが、昔は表意文字の漢字であるのに、途中から表音文字のハングルに変えると、言葉の意味がまったくわからなくなってしまうのは間違いない。
しかも、現在韓国で使われているハングル語は、日本が日韓併合時に再教育をした言葉で、その時、韓国で使われていた言葉の8割ほどが和製漢語であるという現実がある。
また、現在の韓国人の若い人たちは、ハングル語を日本が再教育して、朝鮮に根づかせた事すら知らないし、漢字は日本が朝鮮人に押し付けてきたという風に思っていると知り、びっくりした事がある。
他国の事ながら、残念におもう。
日本の文字の進化
日本に入ってきた(取り入れた)漢字は、日本人の手によって大きく変化してきている。
ひらがな、カタカナの発明である。これにより、日本人は漢字をすっかり日本語にしたのだ。
ひらがな、カタカナは表音文字である。漢字は表意文字だ。
この異なる文字システムを合わせて使う。ここが、世界でも稀な部分でもある。
厳密に言えば中国でも、漢字を表音文字として使う場合がある。外来語や外国人の名前は、表音文字としての漢字を使う。借用文字などもそうだ。
当然、中国の影響がものすごく強い韓国も、過去の論文などでは使われていた。
しかし、日本の漢字とカタカナひらがなをチャンポンで使用する頻度は格別に多い。さらに、言葉も変化してしていき、省略語や擬音もどんどん増えているように思える。
東京都知事になっている人でも、「ファクトを知りたい」等と、英語を交えて話す始末である。
日本語の変化が何処に向かうのか、不安でもあり楽しみでもある。
時間探偵R 海 潤航 @artworks
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