第3話 伊勢を守る「天の逆手」と「四拍手」の結界
出雲大社の四拍手は有名だが、出雲以外にも四拍手の神社がある。
宇佐八幡、弥彦神社である。
柏手の起源は古く、中国の周の時代の礼法が日本に伝わったものと言われているが魏志倭人伝には、邪馬台国などの倭人(日本人)の風習として「見大人所敬 但搏手以當脆拝」と記され、日本独自の風習である可能性が高い。
柏手を打つ回数に関しては、特別に決まりはないと言われていて、3回以下のものは「短拍手」と呼ばれ、出雲大社、宇佐八幡、弥彦神社の4回、伊勢神宮の8回などがある。
現在一般的な二拍手の作法は後年定められたもので、大正、昭和の戦争により軍隊において統一されたものである。
死拍手
四拍手の四が死に通じるという発想が話題になった。
確かに、出雲大社の逆向きの注連縄など不思議な事が多い。
ただ、四が死に通じるというのは、出雲以外にも四拍手の神社があるし、他の宇佐八幡、弥彦神社では意味が通じないので、現在取り上げられる事は少ない。
しかし、それでもこの神社が四拍手を残しているというのは理由があるはずだ。
今回はその意味を推理してみたい。
四柏手の神社
宇佐神宮は大分県宇佐市にある。
ご存知全国に約44,000社ある八幡宮の総本社である。
祭神は上宮一之御殿が八幡大神(はちまんおおかみ)- 誉田別尊(応神天皇)
国引き伝説の出雲大社
祭神は大国主大神(おおくにぬしのおおかみ)。14世紀頃には素戔嗚尊だった時期がある。
弥彦神社
正確には彌彦神社(いやひこじんじゃ)。新潟県西蒲原郡弥彦村にある。祭神は天香山命(あめのかごやまのみこと)。
四拍手の神社の共通点
◎四拍手の神社は、伊勢神社から離れている。
当たり前だといわれては元も子もないが、地図を見ればその位置関係に意味があると思われるのだ。
◎3つとも日本海側にある。
一直線とは言わないが、線で結ぶと境界線のようにも見える。
◎祭神が天照ではない。
これも当たり前といわれそうだが、天皇家の祖先とされている天照大神を祭っていない事も注目に値する。
確かに四拍手の神社の祭神にも大和系の神様は祭られている。
宇佐神宮の八幡大神は応神天皇といわれている。
宗像三女神(多岐津姫命・市杵島姫命・多紀理姫命)は天照大神の子供になっているし、神功皇后も大和一族である。
しかし、歴史に詳しい人なら、宇佐神宮が渡来人秦氏の神社だという事は知っている。
祭神は大和系だが、その始まりは秦氏という渡来系の一族である。
この話題は多くの人々が思い思いに説を述べているので詳細を省きたい。
ただ、渡来系の一族である事は、皆さん異論は無いと思う。
出雲大社の大国主命は、当然大和族ではなかった神様である。
弥彦神社の祭神は古事記の高倉下(たかくらじ)といわれている。
『古事記』、『日本書紀』によれば、神武天皇とその軍は東征中、熊野で悪神の毒気により倒れた。しかし、高倉下が剣をもたらすと覚醒したという。ウィキペディア
天孫族になっているが、大和族の助っ人の意味合いが強い。
神武天皇を助けた高倉下の剣をご神体とする石上神社は、物部氏にゆかりがある。
現在の祭神は、様々な事情により変化を繰り返した結果である。
なので、根掘り葉掘り調べていっても、木を見て森を見ずという全体像が見えなくなってしまう。
古代、渡来系と国津系、天孫系の集団が群雄割拠していた事は十分推測される。
しかし、天孫系大和の勢力が力をつけ、周りを巻き込みながら日本を作っていった。
これは事実である。
対中国への結界
渡来系も国津系も、大和になり、足並みがそろい日本は統一国家の道をたどっていく。
統一された日本国の敵となったのが、朝鮮半島も含む大陸である。
日本は外国から侵略こそされなかったが、その脅威は存在する。
だからこそ、外国の脅威を防ぐ防波堤が必要になる。
それが四拍手の神社なのだ。
天の逆手
「天の逆手(あまのさかて)」という言葉がある。
この話は、実に興味深い。
出雲の話である。
原文
故爾に天鳥船神を遣はして、八重言代主神を徴し来て、問ひ賜ひし時に、其の父の大神に語りて言ひけらく、「恐し。此の国は、天つ神の御子に立奉らむ。」といひて、即ち其の船を蹈み傾けて、天の逆手を青柴垣に打ち成して、隠りき。
国譲りを出雲の大国主神に迫ったところ、息子の事代主神に判断をゆだねているという。
再度、事代主神に国譲りを迫ると、国を譲る事を了解したという。
しかしその後、すぐに船を踏んで傾け、天の逆手(アマノサカテ)を打って、船を青柴垣に変えて、そこに篭もったという。
この天の逆手(アマノサカテ)が呪いの柏手といわれている。
大和が無理やり国譲りを迫った。勢力的に不利な事代主神は、しょうがなく了承したが、その悔しさのあまり、呪いの柏手を打って、自殺したと解釈している人が多い。
まあ、古事記の話は不思議なものも多いのだが、この話はかなり妙である。
まず、大和を呪う話をわざわざ古事記に書いたというのが妙である。
「天の逆手」が呪いのまじないとされたのは、平安時代の伊勢物語の中で「天の逆手を打ちてなむ呪(のろ)ひ居(を)るなる」という文があったからである。
なので、呪いかどうか賛否両論なのだが、呪いという解釈が多い。
しかしもっと別の意味があるのではないだろうか。
古事記は物語で、現実ではない。なので、抽象的だ。
まずその事を頭に入れたい。
「恐し。此の国は、天つ神の御子に立奉らむ。」と事代主神は宣言した。
観念したのだろう。
そして、大和側になる事の意思表明をしたのだと思う。
それが「即ち其の船を蹈み傾けて、天の逆手を青柴垣に打ち成して、隠りき。」である。
青柴垣(アオフシガキ)とは青葉のついた柴(しば)で編んだ垣根である。
通常は事代主神が隠れるためにその場所を作ったと解釈されている。
しかし、そんな女々しい事を事代主神がするだろうか。
もっと重大な事を大和勢に示したんじゃないかと推測する。
事代主神の男気
大陸との防波堤になりますよと、決意表明した。
それが私の意見である。
出雲は渡来系といわれている。
朝鮮半島経由で日本にやってきた一族だろう。
しかし、大和側になった以上、大陸と決別しなくてはいけない。
その心意気を示すために「船を蹈み傾けて、天の逆手を青柴垣に打ち成して」だ。
船を垣根に変えて見せたのである。
こうする事で、日本の大和側に忠誠を示した。
そして天の逆手を打つ。
さらに事代主神は、これまでの戦争の責任を取る。
大国主神は国王だが、出雲国のシンボルである。
実務の総責任者は事代主神だ。
これから出雲が大和とともに生きていくには、これまでの戦争の責任を取る必要がある。
戦争裁判を起こされない内に、自ら戦犯となって出雲を救おうと考えたのだ。
そして、隠れた。
もし天の逆手が出雲の呪いの作法だったら、天の逆手とは言わなかったのじゃないかな。
「出雲の逆手」などといった、出雲族のやり方をしたと思う。
わざわざ「天の」といったのは、大和側にわかるような柏手だったはずだ。
事代主神は大陸側に向けて、手のひらを下に向けて(あるいは手の甲にして)拍手を打った。
これが、大陸の神と縁を切ったというパフォーマンスだったのだ。
そしてその柏手の回数は四回である。
この時代、神社の柏手の回数に決まりは無かったはずである。
四回ではなかったかも知れないが、パフォーマンスとすれば意味がある。
ふと思ったのだが、その当時の中国大陸で信じられている風水の四神相応の考えに対応したのではないだろうか。
四神相応とは背後の山が玄武、前方の水が朱雀、玄武を背にして左側の砂が青龍、右側が白虎である。
日本の平安京にも四神相応が取り入れられている。
事代主神は大陸の四神相応と縁を切り、大和の繁栄を祈った。
天の逆手は、天の栄手(さかえて)となるのだ。
これが私の推測する「天の逆手」の結論である。
そして、渡来系の大御所たちは、出雲の考えに従ったと思われる。
そこで、九州の雄宇佐神社も、越の渡来系弥彦神社もそれに習い四柏手に決めたのだ。
四柏手は大和の結界となった。
そして大和の伊勢神宮はその倍の八回の柏手を打ち、それに答えたのだ。
そして日本になった
神社はその地の勢力の拠点である。
神道で神を祀る場合、場所が重要となる。日本の神々は、西洋の神のように万能ではない。
だから場所を選び、その神を祀り降臨していただく。その祀る神社の大きさで、その神様の守備範囲が決まる。
神社の祭り事と、政(まつりごと)は同意義だ。
神は威厳と正当性という権威を、豪族は権力を持ち、その両輪でその地域を護るのだ。
宇佐と出雲は朝鮮半島を含む大陸勢を、弥彦神社は東北、北海道勢を見張り、他の神の進入をさえぎる拠点、すなわち結界となった。
そして大和は日本国となっていったのだ。
ちなみに出雲大社の大国主命の祭壇は、西を向いて作られている理由は、大陸を見張る意味がある。
出雲大社の注連縄が逆なのは、天の逆手と同じ考えで、出雲大社の結界ではなく、日本と大陸の結界の意味を持つからだ。
国津神の最大勢力出雲族が大和と手を組むという英断で、日本の歴史は決まったのだろう。
出雲の「天の逆手」と四柏手は、他の渡来系の決断を迫ったともいえる。
そして、宇佐神宮も弥彦神社も意思表示をする。
それが四柏手である。
推測の域を出ないが、それが真相だと信じる。
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