5.2019年4月9日
真っ黒な壁。
身動きができない。
「ここは……」
小さな箱のような空間に何故か僕は押し込められていた。箱には蛍光灯が取り付けられているから中は明るい。
「ゆ、夢だよね?」
いつもの夢ならふわふわとしてる。
ふわふわとしているはずなのにそれがない、箱の床は固く布が敷かれているけど痛い。やけに現実っぽくて嫌な汗が垂れた。
「死後の世界とかじゃ……ないよね?」
ガタンガタンと揺れる箱の中。
自分の服は寝巻きじゃなくて白い着物のようなものになっている。
「火葬場に連れてかれてる?棺桶の中で息を吹き返してそのまま焼かれることがあるって見たことがあるけど…まさか」
手を動かして棺桶を叩こうとした、けど__
「動かない……なんでっ」
目や口は動かせる、首も問題なく動かせる。けど首から下は全く動かすことができない、力をいくら入れても動かせない。
「焼かれて死ぬのはやだ、痛いのはやだ。痛いのだけは絶対に嫌だ、いやだいやだ嫌だ嫌だ!!」
死に物狂いで叫ぶ。
「出して!!お願い!出して、出して出して!!」
がたんガタンと揺れる箱の中で僕は必死に助けを呼ぶ、けど僕の声は誰にも届かず淡々と運ばれていく。少し時間が経ったあと、揺れが納まって箱が下に落ちる感覚を感じた。
「焼かれる、火は嫌だ。火はいや、嫌だ、出してっ!出して出して!!」
下に落ちていく感覚に恐怖を感じる。
ふと頭の中に知らない映像が流れた。
【西条睡】
現世の自分の名前が書かれている戒名。
火のついた線香が立てられていてロウソクが2本横に設置されている。
「まだ。まだ、死んでないよ……まだ。夢の中だよ、そう。夢の中!」
目をつぶって“早く起きろ”と何度も念じる、起きろ、早く起きろ、目を覚ませと何度も何度も念じれば当たりが明るくなった。
パッと目を開ければそこは自分の自室。
青色のカーテンから光が漏れていて電気がつけっぱなしになっている。
「やっぱ、夢だったじゃん……よかった」
明るい部屋に安心して立ち上がろうとした、だけど体に力が入らない。
「あっ……なん…で?」
動かない時が着いた瞬間、部屋がゆっくり、ゆっくりゆっくり縮み始める。ゆっくりゆっくり、ゆっくりゆっくりゆっくり部屋は小さくなって部屋の外に投げ出された。
真っ暗な空間に浮かび、部屋を見る。
「まだ、ゆめの……なか」
そう呟いた瞬間、口から糸のようなものが出てきた。糸には文字が書かれていて自分が言った言葉が並べらている。
【まだゆめのかかかかかかかかかかかかかかかかかかかかかかかかかかか____】
口から溢れ出す糸。
両手で口から吐き出される糸を止めようとした、けど糸は止まらず指先が消え始める。
「嘘、うそ。止まれ、とまれとまれ!!」
足から腹までが消えて指先から肩までが消えた。言葉の文字が入った糸は見下ろしている部屋に落ちてカラフルな小さな木の板を作り出した。木の板はドミノのように整列して数が増える事に大きさを変え始める。
肩から下が消える頃にはドミノがパタリパタリと倒れ始めて最後の1本が倒れた瞬間、僕の意識がプツンと切れた。
とん、とんとんとん。
ガラスを突っつく音が消えこ目を開けると次は水の入った丸いガラスの中に入れられていた。ガラス越しから見える都会の街並みは親の仕事でついて行った場所によく似ている。
「あ……あぁ。あ?」
気泡がプツプツと口から漏れ出た。水の中なのに声が出せるということはまだここは夢の中ということ。
「っそうだ、夢ならクロがいるはず……クロ!お願いだからでてきて!!クロ!」
そう叫んでも彼はやってこない。
もしかしたらガラスのせいで見つけられないかもと思い、僕は手を伸ばしガラスに触れて音を出す。
「クロ!!いるんでしょ!?返事して!」
コツコツとノックをするかのような音を出し、夢の世界に現れる彼を呼ぶ。
何度も、何度も何度も何度も、何度も何度も名前を呼んだけどあの人は僕のところに現れない。
「くそ、なんで。なんでこんな夢ばっか…」
水にぷかぷかと浮きながらガラスの外をじっと見つめる。
なんで、なんでこんなことに。
夢なのに、夢なのになんでこんなに気持ち悪い夢ばっかなんだ。
現実も、夢も、どっちも同じようなものになっている。夢だけは、夢だけは僕の自由だと思ったのに。
「早く、目覚めてよ。ねぇ」
そう呟いたと同時にガラスが割れた。
水と共に体が流されて地面へと落下する。
「っ!!」
地面にあたる、そう思ったけど体は地面に落ちることなく変わりにドアが現れてそのドアの中に吸い込まれた。
「まっ___」
ドアの中は真っ暗な空間。
僕を吸い込んだドアは自室のドアと同じ形で他にも家のドアと同じくドアやクローゼットの引き戸、和室の襖や学校のドア、シャッターや和風の家の門などの扉が沢山空に浮かんでいた。
真っ黒な世界をただひたすら落ちていく。
浮かんでいた門達は徐々に見えなくなって行った、それぐらい僕は下に、下にと落ちて行っている。
暗い、暗いくらいくらいくらいくろいくらいくらい。
早く、早くお願いだからこの悪夢から覚めてくれと僕は涙を流しながら強く願った。
「もういやだ、はやく殺して」
プツンとまた意識が切れる。
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