2.2018年11月23日




「こんばんは。クロ」

「んっ。おはよ、スイ」

「今日も元気そうですね」

「まーなぁ。ふあぁあ」



真っ白な空間でいつもの様に挨拶をする。

クロは大きな欠伸をしながら今日も僕のところにやってきた。



「今日はどんな夢を見るのでしょうかね」

「最近ずっと学校か塾の場所の夢ばっかつまんねーんだよなぁ。遊園地とかゲーセンとかの夢がいいな、面白い場所ならなんでもいい」

「学校しか行かないので仕方ないじゃないですが……でも今日から三連休なので起きれたらどこかに行きますよ」



真っ白な道をいつもの様に歩けば見覚えのある部屋が現れる。



「今日は自室なんですか」

「おっ。学校よりかはいいじゃねえか!!」



今日の夢は自分の部屋。

現実と違って勉強机には何故か参考書や教科書が入っていない、勉強に関するものが全て見当たらない。またクローゼットにしまったはずの電子ピアノが置いてある。絶対に置いていないはずの漫画や雑誌が置かれていてご丁寧にお菓子や飲み物も用意されていた。自分の部屋のはずなのに自分の部屋じゃないみたい。



「立ち読みした時の漫画と週刊誌……夢に出てきちゃいましたか」

「スイって漫画好きなのか?」

「ま、まぁ……お金が無いので買ってないけど好きですよ」



ドサッとベッドに座って天井を見る。見慣れた天井だけど少しだけ違和感がある、夢だからきっとそう感じるのだろう。



「じゃ、俺は漫画を見るからスイはさ、ピアノでなんか弾いてくれよ」

「えぇ……静かな方が集中できるでしょう」

「いいんだよ、スイの弾くピアノが聞きたいんだよ」

「はぁ、仕方がないですね。分かりました」



頼み事は断れない体質なので大人しくピアノの前に座る。



「下手ですから。期待しないでね」



そう言って僕は自分が大好きなクラシックを弾く。



最初に覚えたクラシックである“エリーゼのために”と初めて暗譜に成功したブルクミュラーの“アラベスク”を丁寧に弾いた。教科書通りにやるのが苦手だった僕は教科書と並行して魅かれた曲を教わってたからあまり技術はない。


基礎を終える前に家庭と部活の事情でやめてしまったからもう伸びることはないけど。



「スイの弾くピアノの音、すっごく好きだわ」

「ありがとう……そう言ってくれるの、クロだけだよ。聞いてくれるのもクロだけなんだけど……」

「はぁ、もっと自信持てよ。スイは自分が思っている以上にすっげぇやつなんだからよー」

「クロは優しいね、明日大雪でも降るんじゃないかな」

「ひっでぇーこと言うなぁ……俺は思ったことしか口に出さない!本心しか言わないやつなんだぞ!」



がははっと豪快に笑うクロ。

ピアノを褒められたことなんか亡くなったピアノの先生ぐらいだったから少し嬉しくて僕はクロにピアノをたくさん弾いてあげた。


夢の世界にいる彼だけが僕を肯定してくれる、クロだけが僕を受け入れてくれる。



「夢の世界ばっか居たら体が持たなくなるぞ、スイ」

「大丈夫だよ」



ずっと、ずっとここに居たいけど目を覚まさなきゃいけない、夢だけを見ていたいのに。



まだ、覚めたくない。



落ち着く曲をクロに頼まれたからシューマンが作曲した“トロイメライ”を弾く。

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