1_2018年8月31日





真っ白な空間をふわふわと漂う、


さて、今日の夢はどんなものを見るのだろう?



「おっ、おぉ?今日も来たのか“眠りねずみ”」



ケラケラと笑いながら僕に声をかけてきた1人の少年。



黒い学生服に身を包んだ彼は僕と同じぐらい身長が低く、とっても細い。髪型と髪色も同じで僕にそっくり。僕と違うところは口がとても悪いところと“顔半分がたくさんの黒い線で見えない”ようになっているとこだけ。



「眠りネズミって呼ばないでくださいって何度も言ってますよね……いい加減やめてくれません?」

「ごめんごめん」



顔を顰めてそう言えば彼は小馬鹿にしたような笑みを浮かべ、僕の“頭上に浮遊し始める”。



「怒ってる“スイ”って面白いな。白飯3杯は食えるわ」

「叩き落としま……いや、叩き落とす」

「わ、ちょ。いきなりやめろよ!」



背伸びをして彼に手を伸ばすがひらり、ひらりと宙を舞ってかわされる。

彼に少しだけイラついた。



「はは。スイはチビだから俺を捕まえるなんて一生できないよ、ぷぷ」

「“クロ”もチビじゃないですか。クロみたいに飛べるのならすぐに引っ掴んでぶん殴ってますよ」

「飛べても俺みたいには飛べないと思うぞ、はは」



ケラケラと笑う彼___クロを置いて僕は道を歩き出す。



「ちょ、置いてくなし!」

「知りませんよ」

「悪かったから‼」



クロを無視して僕は白い空間を歩いて行く。

まだここは何も無い場所、入口のような場所だからここは何も存在していない。


しばらく歩けば真っ白な空間に色がつき始める、今日現れたのは見覚えのある大型ショッピングモール。電気は点いているが人がいない、僕とクロの2人だけ。クロが興味津々で服を見てる。学生服から別の服に変えるつもりなのだろうか。



「スイ、これ全部長袖なんだけど。季節感バグってんじゃないの?」



ふわふわと僕のところに戻ってくるクロはとても不満気で口がへの字になっている。

ショッピングモールに置いてある服は全て長袖で今の季節には不釣り合い。バーゲンと書かれているカートの中には真冬のコートが置いてあったりする。


今の季節は夏だから普通は夏服を置くところだろうけどここは僕の夢の世界。

僕が見た時のものが反映されるから仕方がない。



「こんなに大きいショッピングモールは4月……いや3月に来た以来きてないから……春物しかないです」

「ちぇーせっかくショッピングモールだってーのに来た損じゃん」

「仕方ないじゃないですが……」



クロにも季節感覚がちゃんとあるようで彼は夏服夏服と連呼している。残念ながらどこを見ても春物しか置いていない。



「仕方ないじゃないですか……あの時も仕方なく来ただけだし…」




あの時は確か____




「はい城西が負けー。ゴチになりまーす」



「お前ほんとクジ運悪いな」



「まじでついて無さすぎ、まぁ決めたことだしちゃんと奢れよー」




同級生達に連れられて来たショッピングモール、僕はクラスメイトの奴ら4人と一緒に来ていた。



「勝負事勝ったことない気がしますが……。とりあえず負けた分の1000円です」



財布の中から1000円を4枚取り出して彼らに渡す。クジで毎回ハズレを引いていつも僕は誰かにお金を渡していた。あの日も財布代わりに僕は呼ばれてたっけ。彼らとは2学期になって縁を切ったけど今でもちょっと___



「ほ、他のとこ行こうぜ。俺がついていってやるんだから感謝しろよ!?」



突然大声を出して僕の手を取って進み出すクロ。



「な、なんですか急に…」

「うっさい、黙って一緒に行くぞ!」



腕を引っ張られながらクロについて行く。


しばらく歩けば電気が電気がついていないゲームセンターが見えてきた、クレーンゲームには景品が入ってなくて中身は空っぽ。他のゲームにも景品は一切入っていなかった。



「なんだよ、空っぽかよ……ま。別に取れるわけねーしいっか、音ゲーしようぜ音ゲー」



ゲームセンターの奥のブースに行けば電源が入ったリズムゲームが2つあり、既にプレイできるようになっている。夢世界では基本的に持ってなくても勝手にできるようになってるからお金が無くても基本は大丈夫。



「僕下手くそなんですけど」

「スイこのゲーム好きじゃん、やれよー?俺もこのゲーム好きなのー」

「クロはした事ないでしょ……」

「あるし。全然あるし、なんなら毎日通いつめてるし。スイよりやってるし」

「はぁ……分かりました。1回だけですよ」



大きなモニターの前に立ち、画面を操作する。難易度はこのゲームで最高難易度の“超ハードモード”を選択し、スピードも少しだけ変えた。隣に立つクロはチラチラと僕を見ながらハードモードにするか迷っていて結局ノーマルモードを選択してスピードを遅くしていた。



「ハードモードにしないんです?」

「今日はノーマルでしたい気分なんだよ……い、いつもはハードモードでしてるからな!今日だけだから!スイが俺のを見て嫉妬しないように配慮したんだからな!!」

「はは。そういうことにしておきますよ」

「いいから早く曲選べよ、スイに全部選ばせてやる」

「ありがと……じゃあこれで」



いつもやっている曲を選んで始める。

人とやることなんかないから隣で聞こえるクロのミスをした時の声が面白い。ぎゃ、とかなんで!?とか今の触ったじゃん!とか半ギレになりながらプレイしているクロ。やっぱりやったことは無かったみたい。面白すぎてお腹が痛い、死にそう。


ゲームが終了するとクロははぁはぁと息を切らして地面に倒れた、とても疲れた様子。



「無理、やっぱ無理。今日は無理」

「楽しかったです、久々にこんなに笑った」

「ちょーしが悪かっただけ抱かんなっ!」



倒れたクロの隣に座る。それと同時に僕の手に水が入ったペットボトルが現れて僕はそれをクロに渡した。



「水、飲みます?」

「貰う。疲れた」

「でしょうね」



起き上がってクロは水をごくごくと飲む。ものの数分でペットボトルは空になり、クロは飲み干したペットボトルを遠くに投げた。



「ゴミを投げちゃダメ」

「どーせ夢の中なんだし大丈夫だろ」

「そうですけど……」

「夢なんだから自分のしたいことをすりゃいいんだよ。ここなら誰にも怒られないし責められない、笑われないし自由にできる。まぁ夢を選べないのは残念だけどさー」

「急におじさんみたいなこと言いますね」

「うるせー。まだ俺も学生だわ」

「ごめんなさい。でも夢さえ変えれたら楽しいんだろうね……きっと」

「そのうちできると思うぞ……無理だと思うけど」

「どっちですか」

「どっちだろーな」



夢は向こうの世界よりずっと自由。

彼が言った通りだけど夢を選ぶことができない、夢の中を歩き回ったり記憶に残したりできるけど見る夢の内容を変えることができない。見る夢の中をクロと一緒に回るのが夢の中での僕の楽しみ。



「明日学校なんです。宿題しましたか?」

「いや、してねぇ」

「馬鹿なんですかクロは」

「うっせぇ。宿題は朝にするタイプなんだよ、スイが起きたらするんだよ」





口は悪いけどクロはとっても優しい人。

彼のような人物が現実に現れるといいのに。

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