第150話 光栄
父さんの願い通り、この案件を引き受けて、飛ぶ鳥を落とす勢いの人生向上を望みたい、と咽喉を締め付けるように強く、願っている僕もいないわけではなかったけど、失った時間はあまりにも大きかった。
龍淵に潜む、という、秋の季語のように降って湧いてきた、果報に僕は待ち焦がれていたくせに、不安感から前進できない僕もいた。
この身に余る、光栄を授与するだけの、高邁な具現性があるわけがないのも熟知していた。
これで今まで知り合った人たちともお別れするかもしれない。
僕は僕の人生も決められないかもしれない。
と言うより、父さんと出会ったことで僕の人生の舵取りは大いに選択を迫られたのだ。
無論、僕も誰が寄るのならば、大樹の陰と言うように、長い物には巻かれなくてはいけない。
屋敷での暮らしに表面上、波風立つような不穏さはなかった。
今までの悲惨な暮らしとは天と地の差ほど違っていたし、父さんの計らいで僕は都内のトラウマ治療の専門医にかかり、受診した。
高校は年齢的なハンデがあるので、とある通信制高校に転入し、復学した。
「君の病状は君が思うほど良くはない。ちゃんと治療をしていこう」
最先端のトラウマ治療が専門の主治医は言った。
「君はとても辛い思いをしていた。君が背負う立ち位置もあまりにも重い。過去に折り合いをつけて、これからの人生を見出して、毎日、一歩一歩ずつ解決していこう」
もうすぐ、春が来る。
通信制高校に入り直した僕は人生プランを立て直しながら毎日、何とか過ごしていた。
父さんの父母、つまり、僕にとっての父方の祖父母に会い、祖父母は僕に会ってまもなく、大粒の涙を流しながら僕を慈愛した。
「この子はあまりにも酷い目に遭ったのだよ。辰一君、君はもう我慢しなくていい」
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