第139話 年歩む頃に
その一報を知ったのは、師走の候、年歩む大晦日の、二週間のクリスマスが明けた頃だった。
焦燥感のある年末調整に明け暮れる、世間の荒波に揉まれ、その不穏なニュースさえも一読するのを忘れてしまいそうなくらいだった。
スマートフォンの画面上から速報ニュースの一覧表に、彼女の本名が奇怪に青く光っていたとき、僕は反射的にタップした。
そのスキャンダラスなニュースは彼女、本名、北崎ゆかり女史がゼミ生の青年に大学構内で脇腹を刺された、というものだった。
僕はそのゼミ生の本名を初めて、知ったのに昔馴染みの旧友のように感じ取った。
それもそのはずだった。
名前は知らなかったけれど、その容疑者とは僕とあの夏にぎこちなく触れ合った、あの成金青年だったからだ。
マスコミはこぞって、良識のある、リベラル派の女性教授が一方的な恨みを買い、精神的に不安定だった、成れの果てのゼミ生から刺された、大学運営絡みの事件に同情的で、誰もがその彼女のこれまでの功績を紹介していた。
というのも、あくまでも表面的だったのは時間の問題だった。
醜聞を得意とする、週刊誌はこぞって、良識派の彼女が大学入試に不正に関わっていた、と煽情的に報道し、しまいには多くの若い年少者を買春していた、不貞を嬉々としてクローズアップしていた。
どこから、その不都合な真実が漏れたのか、出所は判然とはしなかったけれども、天網恢恢疎にして漏らさず、多くの真実という真実は隠し通せないものだろう……。
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