流転の波止場

第128話 古書のオアシス


あれから、僕は仕事にも行けず、アパートで寝込んでいた。


時折、仕事に出向くが、お金は一向に貯まらない。


北崎ゆかり女史とも縁は切れてしまった。


スマートフォンで彼女に連絡したら意味もなく、ブロックされていたからだ。


その精神的な後遺症で給料も絶たれてしまった。


 


出生の秘密を暴かれた少年に有意義な居場所なんてない。


高卒認定試験を、満を持して挑戦するという目標もさっさと消え去った。


千切れたレターセットのように僕は愚弄な妄念を痛々しく、抱え上げる。


残暑を引っ張る、爽籟の風を路上の彼方から浴びながら、神保町界隈を散歩する。


 


ここは異世界の住人が集う古書のオアシスなのだ。


まだ、神保町中の古書店を見学し回った機会は訪れない。


宍戸さんさえ、知らないような小さな店舗もあるという。


畏れ多くも神保町は通信制高校さえ、中途退学した僕に知的好奇心を刺激させる、インテリジェンスな文化香る街なのだ。


 何をやってもやる気が沸かない僕は理解のある宍戸さんに自由な時間をもらい、何かとあれば、神保町を歩き回っていた。


さ迷い歩く野犬のように僕は追跡者に怯えている。


 


神保町のいいところ。


それは誰もが受け入れられる排他性とは真逆の誠心誠意の精神性だった。


この上ない歓喜に僕は疲れ果てた身体を癒し、活力を養っていた。


古書の香りを嗅ぐのは鼻にもいいし、古書店の雰囲気は目の保養にもいい。


 

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