第127話 月光メモリー
――父さんの真情を辿る旅路に僕はいない。全くいないんだよ、と僕はぎこちないくらい、清らかな真実に縋った。
暮雪のような色合いの月下美人が夜のうちに枯れてしまうように、このメモリーの哀しみにも僕は除け者にされている。そう、勝手に勘違いするように。
父さんの真情が書かれた文の一覧は僕の心に刻まれた。
それを企んだのはあの醜い姫だろう。
父さんのカメラ目線のまま、僕は一人の人生を疑似体験し、再生したのだ。
父さんの詳細な感情を僕は縁取るように体験した。それが何だと言うのだろう?
父さんは僕ら母子の跡を追わず、その行方も探さず、自身は幸福な家庭を築き、傷つかない範囲で僕に憐憫を掛けたのだ。
いや、それは僕の半煮えだったのかもしれない。
「どうでしたか」
目を覚ますと、辺りは大して殺風景でもない、東京のがやがやした、屋上の景色へと変わっていた。
姫が蒼天を仰ぎながら僕に何か不平不満をあげつらう。
「全然。僕が君の腕の中で眠りながら父さんの心情を追随するなんて皮肉な意気だね」
姫がこっくりと頷いた。
そして、憫笑した。
「私はあなたに仇を打ちました。もう、思い残す妄執などありません」
姫の見解が本当かどうか疑問は残る。
「もう、この東京に禍を残さぬように君は太平を祈ってほしいんだ。僕はどうなってもいいから」
「あの少女は生きておりますよ、死にたがっている少女は先にのそのそと帰りました。私と邂逅したことも忘れるよう細工しておりますから」
姫のしたり顔は切なさが含まれていた。
「今日は月が綺麗ですね」
十五夜の晩、かぐや姫に恋い焦がれられてしまう、帝のように僕は姫に囁く。姫は僕の作為に気付いたようで、不吉に笑った。
望月の夜半、刻一刻と僕の憂さ晴らしが変わるように暗雲は流れていった。
気付いたら僕は朝まで屋上で過ごしていたようだった。
最近、疲れているんだ、と奮い立たせながら僕は昼過ぎまで鰯雲を観察していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます