第124話 弥栄
君の言葉はすっかり、事務的な標準語に馴染んでしまっていた。
「そういうわけじゃない。むしろ、君のお腹の子が男児ならば、それだって絶対にやってはならない。必ず、産まなければいけない。僕の家はそういう家だ」
君の表情がますます曇る。
「どういう意味なの? ねえ、義彦さん」
――君には罪はない。お腹の子にも、もちろん。
あまりにも背負う、重責が大きかった。
僕の一族は、ある一定の思想グループからは図らずとも、命の危険を晒すほど憎まれ、疎まれている。
外交上、本音で言えば、許しを請われるほど、よく思っていない国民の一定数だっていただろう。
内憂外患、僕もまた、幼少の頃からSPに付かれ、学校では恭しく見つめられ、誰彼構わず、僕を尊き者として見上げていた。
両親も誇りを忘れず、その悠久の弥栄の伝統を絶やすな、と僕に教え諭していたし、僕の一族が普通とは乖離している、と突きつけられた。
ただ、君だけは僕のことを僕として見てほしかった。
君だけは僕のことを一人の人間として見てほしかった。
色眼鏡ではない、素直な眼で見てほしかった。
「僕の一族は君のお兄さんが舞った神楽と関係している。日本神話に詳しい君ならば、理解は容易い筈だろう」
君の眼が強張っていく。お腹の子を守るように震えていく。
「まさか……、そうなの?」
僕は静かに頷いた。
「そうだよ。君のお腹の子もまた」
君は動揺が隠せず、お腹の子を守るように首を振り続ける。
「その子の性別は?」
何で、そんな水を差すような、セリフを僕は吐いてしまうんだろう。
「病院で妊娠が分かったときは男の子だって……」
君が宿した胎児は男児だったのだ。
血統を裏付ける男子を君は身籠った。
君が僕を恐れるように見つめている。これは何が何でも避けたい凶事だった。
「僕の不注意で」
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