第121話 光明


 神道、取り分け、祝詞は言の葉もやっと、話せるようになった、ごく幼少の頃から叩き込まれ、一言一句、滑らかに諳んじるように教育されてきたものの、両親のもとであっても、この堅苦しい空気を僕は本音を漏らせば、渋々と嫌っていた。


 


 実を言えば、神楽の奉納でさえ、執事があまりにも熱心に諭すものだから、嫌々ながらルーティンのように参上しただけだった。


 父にも謂えぬ、複雑な葛藤に天岩戸のような一筋の光明をもたらしたのは、銀鏡神楽を含む神事を、奇をてらわない、誇りを口にする君に出会ってからだ。


 


 君がいて、僕は初めて、神楽が里の者に信仰され、朱に交わらない、矜持を持って、大切に語り継がれているのを間近で知った。


 幼少期から参上する厳かな神宮でも、厳粛さを保つように強要はされても、君が目をキラキラ輝かせながら言うように、神楽を心底から誇りを持つなんて、思春期らしい反発心もあったせいで、うまく受け入れなかったから。 


 僕の一族が悠久の時代性を賭けて、守り続けた心の財産を君は曇りのない眼で、あっさりと肯定してくれたのだ……。



「君のお兄さまの一人剣を見てみたいな」


 僕は素肌の君の新雪のような曇りのない、うなじを撫でながらこっそりと言う。


「お兄ちゃんは林業を営んでいるからがさつじゃよ。義彦さんは馬が合うかな」


 口を開けば、宮崎弁のままで喋る君に好意はますます、花開く。


「銀鏡の自然は綺麗じゃよ。義彦さんもびっくりするくらいに山奥なんや」


 君のブラウスの釦を少しずつ、開け、クスクスと僕らは笑う。


「君の肌の色、恋に咽ぶ桜のようだ」


 僕が冗漫に言うと、君は小さく口を開け、その衾雪のように純白な乳房がブラウスの下から僕の眼を貫くように現れた。


 何て、綺麗なんだろう、と僕はその身を愛おしむように君の乳房を手に取った。


 


 君は震えながら、僕にこの春星の文の決定権を委ねている。


 君の真新しい乳房は温かく、真っすぐに伸びようとする、蘖のような生命力に満ち溢れていた。


 君と深く項垂れ、君と夜もすがら、オルゴールと旋律が合わさるまで、僕は星と君を大事に包み込むように抱く。


 生命を象る、羅針盤よ、僕のパッションを止めるな、と強く唱えながら。


 若すぎた君は孵化したばかりの雛鳥のように僕を見上げて、怯えている。


「怯えてなくていいよ。君は綺麗なんだから」


 

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