星辰
第117話 玉響
ここはどこだろう、と思ったのも束の間、僕は太古の神殿の塗籠の中にいつの間にか、臥せていた。
生絹の天蓋が敷かれた臥所は神々しさもあり、ここが高貴を許された身分の者しか、許されぬ禁中だとつぶさに知った。
檜細工で包まれた塗籠にはお香を焚いたような芳しい匂いもする。
僕は深呼吸をしながら事の顛末を理解した。姫の妖術も国家の潜伏を相打ちするようには見えたものの、姫とて一介の女人である事実には変わりない。
僕が身に纏っていた白装束は手触りを確認すると正絹だと分かった。
それも、格上の一流品の身に纏うのさえ、畏れ多いような繭の命の結晶。
衣擦れの玉響が聞こえる。
僕は覚悟をして意中の相手を掻き抱いた。
姫は僕の目前で恋振し、初心な生娘を演じ切っていた。
北崎女史から散々、手解きされたんだ。
僕は姫の組紐を解き、囁く。
……今宵も月が綺麗ですね、と。
姫は荒々しく僕に多いかぶり、僕の身体の至る所を触り、初めて味わう禁断の蜜を丹念に満悦しているように見えた。
姫の下手糞な逢瀬の技量に僕はひたすら厳格な修行のように耐えるしかない。
「あなたを私の闇にお呼びしたのはこれだけが目当てではないですもの」
姫の狡猾な恋の瀬踏みは巧妙だった。
「私は夢を見せられるのですよ。あなたに」
眠り薬を飲まされたように睡魔が襲ってくる。
「あなたは私から逃れられませんの」
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