第114話 業火の東京、未来予想図
「――澪さん、君は安全なところへ避難するんだ!」
多くの銃撃に僕だけはその弾痕は当たらない。
姫の指図、僕が背負った系図の高潔による、隠蔽。
違う。
僕の周りだけは銃弾は当たらないのだから、少女を僕が守らないといけない。
僕は姫の企みをよそに少女の背中に飛び込み、流れ弾から彼女を阻止する。
少女はガタガタと震え、口を開くことさえできない。
「大丈夫だ。ここにいれば」
僕らは固くそのまま、小屋の物陰に避難し、迫りくる襲来に身を潜めている。
「何があったの? 急に戦争が」
姫の操る魔術には一過性の幻覚があるんだ。
「ここで死んだらいけない。生きるんだ。君は」
腐臭が咽喉を突き、ウっとするような噴煙が四方八方に棚引いている。
僕らは神楽舞をするためだけに屋上へ行った不届き者だったはずだ。
立ち入り禁止なのに勝手気ままに浸入して、今、ダークサイドの身売りの子供の愛称で言われる、トー横キッズのように租界にたむろして、こうやって、東京の月を見上げていただけだった。
それなのに姫は僕の素性のせいで山姥のように追いかけるのだ。
「僕を殺したいならば、僕だけを殺してほしい。澪さんは絶対に悪くないんだ」
人間は誰であっても、死んではいけない命はない。
少女の母親がいくら僕に非道な傷を与えても、娘である少女の生死の安否は守られねばならない。
「辰一君、あたし、怖い。死んじゃうのかな。このまま」
辰一君、と少女から初めて名前を呼ばれた。
屋上から見上げた東京の街は火の海と化している。
噴火口から漏れ出た岩漿のように鮮明に染まった緋色の炎は、ビルや民家、商業施設を焼き尽くし、スカイツリーでさえも火炎に晒されていた。
これはフィクションじゃない。
現実化された東京の未来予想図。
異形と化した磐長姫は不可逆的に戦のテープを切り、我が意を得たり、と僕に向かって頷いた。
「あなたは守りたい人がおるのですから、それで宜しゅうございませんか」
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