第110話 月の客、東京
月の客となった、少女の願い通り、僕は屋上で神楽を舞う。
今宵は中秋の名月、彼岸花も古の時代より、無数に咲いている。
東京のど真ん中で彼岸花もなかなか、咲かないだろうに。
このまま、通過儀礼を終え、あっという間に青年から壮年となり、老年へ結び、死後、僕が僕の生きた証を後世に残すように……、僕は月夜の伶人と遊ぶ舞を捧げるのだ。
今世紀最大の天体ショー、さあ、スーパームーン、東京の月明り、その月光は疲れ果てた都会の天使たちの焦心を洗い出すように照らしているだろう――。
ああ、何て美しい月夜なのだろうか。
スカイツリーに赤い月が合わさり、一本のショートムービーのように僕の瞳はその風景をカットしている。
立ち入り禁止の屋上へ二人で登り、眩いばかりの月白を浴びる。
僕はその場に立つと両膝を下ろし、『ずう』の基本所作を事始めに行うと、くるくると縦横無尽に月の舞の花を広げた。
青い月夜の最中、僕は身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ、一心不乱に舞う。
本来ならば、銀鏡でしか舞ってはならぬ、禁じられた神楽の奥義を東京育ちの少女に奥座敷を広げる。
この屋上からも中秋の名月に照らされた、皇居の美しい森が見える。
何て、綺麗な月今宵なのだろう。月の鏡、僕は真澄鏡と求めるべく、月神楽を舞い狂う。
舞い狂え、舞え、舞い狂う月を抱く少年よ、お前は誰のために舞を捧げるのか、誰のためでもなく、己自身のために舞え、舞い狂え。
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