第104話 綺羅星、残影
僕もまた、抱えきれない哀しみの十字架を背負う少年だったように、と己自身を奮い立たせるしかなかった。
僕にとって孤独と悲愁は、昔馴染みの友人だった。
それも、互いの傷を舐め合うような恋人たちのような。
「あたし、本音なんだよ? 嘘じゃないもん」
少女の綺羅星のように輝く眼が、僕の意中を翻弄する。
日向の国に残した、君の残影を辿りながら、少女に浮つかせようとしている僕は、何とも汚らわしいのか、と警告する。
いいじゃないか、少女も同意しているのだし、と僕の心の闇に潜む悪魔が囁いている。
僕は情けないくらいに僕の若さが憎かった。
僕の若さはまだ、死期に快哉を叫ばず、青年期へと飛翔し、麗らかな春を希釈せよ、と命令しているのだ。
僕の中で速度を加速させる新鮮な、メランコリーは青い沃土の中で琺瑯質のように大きくなっていく。
世界が年老いていくように、僕もまた、諸行無常を達観した老賢人のように、お粗末な煩悩を拭い去りたかった。
「嘘じゃないよ。分かっている。僕は君を傷つけたくないのも分かってほしい」
僕はこれからの夜の長い時間をどう、過ごせばいいか、はたと分からなくなった。
少女とこのまま、このボロ屋の一部屋に居座り続けたら、きっと良くない、と思ったし、暇つぶしするためにも健全な夜遊びをしなければいけない、と思えた。
「澪さん、これから、僕のお気に入りの喫茶店に連れて行ってあげるよ」
少女は思わぬ僕の反応に少しだけ、キョロキョロと期待感を込めて笑った。
「少し、肌寒いから僕の春コートを羽織ったら。セーラー服の夏服じゃ、風邪を引いてしまう」
少女は納得したように立ち上がり、不敵な笑みを浮かべ、その少女らしい、女性として未完成な背中をゆっくりと伸ばした。
少女の手を引き連れながら少女が幸福に満ちているのが、それとなく分かった。
人混みに紛れる、東京メトロへ乗車して雑多な地下鉄構内から神保町へ向かう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます