第102話 宵闇鎮火


「あたし、惚れちゃった。あなたの秘密もあなたの可哀想な境遇も」


 白々しく少女は嬌笑しながら僕を賛美する。


「君は褒め上手なんだね、随分と」


「そういうところがあなたの好きを刺激するの」


「そういうつもりじゃないけど……。可笑しな小言でも吐いたのかな」


「全然。チャーミングなの。あなたは自覚がないかもしれないけれど女性ならば、だいだいそう同意する」


 少女の絶賛は定期開催される、塾の模擬試験の売り文句のように続いた。


「あたし、ここに泊まれるの?」


 僕はせわしげにうん、うん、と頷いた。


「さっき、話した通りだよ。一晩、僕の住むオンボロアパートで過ごせ、といったばかりじゃないか」


 夕闇も迫り、夕さりも過ぎ、宵闇が辺りを寂然と包み込む。


 


 窮地に追いやられた僕は慌てて、ランプを点けようと立ち上がり、照明のボタンを押すと、少女も立ち上がり、僕が点した同時にボタンを押した。


 


 チカチカ、と鈍く点いた蛍光灯の薄明りが、ぼんやりと狭い室内を押し殺したのも束の間、暮夜に支配された居室は、少女の白い麗しき腕が闇夜の裾野に浮かび、純真無垢でもありもしない、僕はどうしようもない、真っ赤な欲動にせがまれそうになった。



「ねえ、あたしと夜遊びを楽しもうよ」


 僕の中の獣性が蠢く、有毒な毛虫のようにじわじわと攪乱している。


 少女の同意もあるのだし、このまま、彼女を掻き抱いても、何の罪にも問われない。


 少女をどう、弄んでも少女が自決しようしているのだから、このまま、二人で地獄絵図に見舞われても、何の大罪を二人には与えないのだから、と根拠のない同意を天津神へと得たがった。


 



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