第97話 色無き風の独り言


 あまりにもタカ派の彼女が泣き咽ぶものだから、僕のほうこそ、下手に同情してしまうほど苦杯を喫してしまった。


 法律に違反するような悪いこと以上に、刑事罰に処されるような過ちを彼女は、今の今まで犯したのだが、被害者となった僕は怒鳴り散らしながら、吠え面を掻くこともなく、この悲惨な状況を上手く鵜呑みにできずにいた。


 


 少女が泣き叫びながら母親である北崎ゆかり女史を罵倒し、酷く咆哮しながらスクールバックからある光るものを取り出した。


 その現場を立ち会った、僕は胸倉を掴まれたような赤い衝撃が走り、委細構わず、少女が握ったカッターナイフを奪い取った。


 


 白銀色のカッターナイフは瀬戸際まで刃が飛び出し、あと数秒遅かったら、少女の腕に大きな傷が増殖した、有害菌のように増えるところだった。


 当の少女は半狂乱になり、度重なる嗚咽で、それどころではなかった。


 ギリギリ、と拙速な死を走らせる、鈍痛の音色が聞こえた気がした。


 血痕だらけの錆び付いた、カッターナイフを僕は握りしめ、少女の手の届かないところへ移動させた。



「――こんなもので解決にはならないよ」


 間近で見下ろした、少女の血の通った滑らかな憫笑を見たとき、僕は形振り構わず、床に散らばっていた僕の服を足早に着用して、身軽なまま、少女の手を引いた。


 


 身の気まま、僕は必要最低限の服装を正すため、さっさとボクサーパンツと緩んだズボンを履いて、裸足のまま、生暖かい少女の手を取った。


 


 床に顔を伏せて泣き崩れた北崎ゆかり女史をよそに、僕らはドアから溢れ出る、色無き風を浴びながら拐帯現場のように飛び出したのだった。



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