第95話 白旗
僕が死んだとしても世間はいつも通りの案件で、何の哀れみもないだろうが、彼女の重責はしっかりと責め苦される運命にある。
僕一人を殺して、何もかもを失う気なのか。
そこまでして、彼女のリベラル派の思想は尊いのか。
沖縄戦の遺族の件を引き合いに僕を責めても何の解決策はない。
「私は皇族の男の子を仕切りになって抱いていたのね。高貴とは正反対の醜態を晒して。もう、終わったのよ。あなたの人生も」
この世に死ぬべき人間がいるのか、僕には判断はできない。
戦争を起こした独裁者ならば、地獄に堕ちるべきかもしれない。
国民から血税を搾り取って、贅沢三昧した政治家ならば、選挙で落ちるべきかもしれない。
何十人もの命を奪った凶悪犯ならば、死刑に処されるべきかもしれない。
「あなたはその高貴な家柄の少年なのに、身体を無様に売っていたのよ。ああ、何て、汚らわしい」
僕はこの世に生まれてくるべきではなかったんだろうか、とそんな途方もない架空のお伽話を唱えながら、僕は首を絞めようとする彼女に抵抗し、何度も意味もなく、その指をかじった。
絞め付けの度合いが次第に強くなり、意識が朦朧となると、頭がくらくらして、もう、白旗を引き上げるしかない、と大いに覚悟した。
このままでは殺されてしまう。押さえ込む彼女の身体をなぎ倒し、何度も足で蹴ると鈍い声が聞こえた。
「ママ」
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