第93話 邪道の告知
油を搾られてばかりだった、僕に何かしらの恩恵をもらっただろうか?
否。
マジョリティは僕を締め付け、膏肓に入るまで奪ってばかりだった。
母さんも含めて。
銀鏡の人たちも同様だった。
神楽舞は集落ごとに大切に守り語り継がれているけれども、天皇制から特段と施しをもらって、全国的にも優遇されているわけじゃない。
むしろ、こんな贋左翼の論客から罵倒されてもなお、片田舎の伝統芸能を一途に守り通している、貧乏で実直な人たちだった。
実際のところは、文明社会から突き放されて、詐取されて、見事に損ばかりしているのが銀鏡の人たち。
ルサンチマン、やるせない、余程、北崎ゆかり、あんたのほうが虚飾にまみれて、豪勢な生活を送り、忖度で有能な若者を選別し、大金の大海に溺死しそうになっているじゃないか、と僕は業を煮やした。
「先生のほうがマジョリティですよ。マイノリティーの味方の天手古舞をしなくても結構です」
僕の口調はぞっとするほど冷徹だった。
「僕は先生が大学の入試の不正に関わっている極秘文書を持っていますから」
僕が邪道の告知を果たすと傲慢そうな彼女の面皮が剥がれ、真っ青となった。
「何か言い返したらどうですか? さっきまであんなに傲岸不遜に僕を罵っていたじゃないですか」
立場が逆転した僕に彼女は怖気を失っていた。
「先生、黙っているならば僕はこの極秘文章を週刊誌に垂れ流しさせます」
強気になった僕の馬面はきっと悪魔の子だったに違いない。
「先生。来週の暁には先生の不正事項がトップニュースを飾りますよ。楽しみに待っていて下さい。先生の名誉欲が見事に破壊されますから」
性悪なサタンに魔道を導かれた少年は不本意ながら嗤うしかないのだ。
「先生の関係を僕は週刊誌に懺悔します。先生が未成年の少年を買春したことも明るみになるでしょう」
懺悔したって僕には失う秘宝もないのだ。
「この会話も僕は録音していますから」
女性教授の顔はこの上なく、強張っていた。
僕は戯れた立ち姿のまま、というより、北崎ゆかり女史の実家で、薄いシャツを上に羽織ったまま、罪を自覚したとき、僕はもう、汚れてしまった大人なのだ、と酷く噛み締めた。
下腹部は何も身に纏っていない。
先刻まで散々、彼女の大穴の中に潜り込んだからだ。
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