曼珠沙華 その花言葉は悲しい思い出

第88話 悲しい思い出


 「あなたの素性、聞いたわよ」


 アバンチュールを終えた、彼女の口からとうとう真実が漏れたのは彼岸花が咲くであろう、菊見月の半ばだった。


 


 最近、彼女は高級ホテルで僕との逢瀬をせずに自ら、住んでいる高級マンションにおびき寄せ、時間や人目を気にせず、呆けた僕をしつこく抱いている。


 今日も日永から、彼女の唇を吸いつき、彼女の中に入っては彼女の虚栄心を満たし、彼女の乳房を揉み倒すような、僕のちっぽけな吝嗇も彼女の意中に厄介なほど収める。


 


 彼岸花の一輪が路上の互角に無理やり、蒼天へ向かうように咲いていたのを見て、僕は一種の切ない、憐れみさえもつぶさに感じ取った。


 その赫々とした、彼岸花は銀鏡でも咲いていた、艶やかな禁じられた花園と同じだったから。


 彼岸花の異名は全国各地の方言を含めても、百種類は優に超えているという。


 


 僕のお気に入りは死人花、狐花、幽霊花の奇々怪々な別名。


 ふふふ、彼岸花の花言葉は悲しい思い出というらしい。


 まるで、異界の赤い水干を身に纏った、公達のスパイの禿の少年が幽玄に案内しそうな、残酷な地獄めぐりが始まりそうで、浮足立つような命名が僕は取り分け、好んでいた。



「うちのゼミ生がうるさいくらい言うから、半信半疑で慌てて、情報の元を調べたの」


 彼女は鬼気迫る顔色で僕を見下した。


「わざわざ、固定の探偵業者にも頼んだ。信じられなかったけど、あなたの身辺を念入りに捜査して、あなたが正真正銘だ、とも確定した」


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る