第85話 暮れ泥む後悔
まさか、僕の父さんがそんな秘密を抱えているなんて考えたくもなかったし、僕はマイノリティーの特権さえも木端微塵に失ったのだ、と思う存分、この愚挙を浴びながら、所以もなく、悟らされた。
そうかと言って、青年の謂う、上級国民としての、多大な優遇措置の恩恵も現在の僕にはなく、その旧皇族としての、誇り高い矜持も何も持たされていない。
マイノリティーの悪い部分と上級国民の悪い部分だけを一身に引き受けたように苦虫を噛み潰したように感じてしまった。
もう、これからはマイノリティーとしての振る舞いも世間は、許してはくれないだろうし、とどのつまり、僕自身は決まり切った、黄土色の敗者であることに変わりはない。
「僕が一番動揺しているよ。急にそんなこと、言われたって」
夕景に僕の中から逃げ出した影を慕いながら、それを淡々と言うしかなかった。
「父さんが僕を認知するかも分からないだろう。それに」
我が物顔で僕を罵っていた青年の表情は夕間暮れに少し、曇りかけた。
「話が本当ならば、僕は私生児だろう。母さんは父さんと結婚もしなかったし、所詮、国籍上は非嫡出子だよ。皇位継承とも関係がない」
大禍時、僕は彼に事実だけを平坦に説明した。
包み隠さず有りのままの事実だけを率直に言った。
「もちろん、遺伝上は父さんであることには変わりはないから、父さんが認知してくれたらまた形勢は変わるかもしれないけれど……。だからって、僕が報われるかは知らない」
項垂れた僕に青年は気でも変わったように優しくなった。
「そうだなあ。非嫡出子だったら関係ないもの。君、お父さんに会ったことある?」
僕はすぐさま、暮れなずむ、藍紫色で染め上げた、火点し頃に首を強く振った。
「そうか。会ったことがないんだ。宮崎から上京して、出生の秘密を知った感じ? そもそも、俺は知らなかったけど、宮崎県って、そういう初代天皇の神武天皇だとか、皇室発祥の地なんだって? で、君の苗字の銀鏡って、検索エンジンにかけたら、バリバリ、その紛れもない証拠なんだな。その逸話も信憑性に拍車をかけたんだ」
僕は頷くことしかできなかった。
「お前、本当に重すぎる、不運しか背負っていないな。高校には行けず、このまま、東京でその日暮らしって感じか?」
蚊が鳴くような声で僕はそうだ、君の言うとおりだ、と淡々と正確に答えた。
「君、その面構えならば、成績はさほど、悪くはなかっただろう。じゃあ、何で進学できなかったの」
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