第84話 秘密の花
出生の秘密を暴かれた、僕を彼女は今まで通り、可愛がるだろうか?
せめて、彼女の耳には、こんな馬鹿げた勘違いを入らせないでほしい。
そもそも、この青年のどうしようもない、妄言なんだから、僕でさえ信じなくてもいい。
「だから、君の勘違いさ。そんな突拍子のない、事実関係なんてないよ」
僕も何とか、工作して彼の興味対象を正常値に戻そうとしたものの、彼の思い込みには確固たる意志があった。
「俺も最初は疑ったさ」
彼の怒気が少しは落ち着いたように思えた。
「他人の空似だろうと思って、そっちの条件も虱潰しに探した。俺の知り合いやネット友達にも確認したし、検索エンジンにも何度もかけた」
彼の鬼気迫る説明文に僕は身をもって理解した。
「怖いなあ。情報社会ってどんなに伏せても、隠し通せないんだよ。真実はどんなに蓋をしても、後からメッキが剝がされてしまうものなんだ」
メッキって何だろう。
彼の言うように僕はショートケーキの上に生クリームと苺がない、空っぽのケーキのようなのだろうか。
「そりゃあ、お前が余程、不遇な人生を送っていたのは認めてやるよ。その男性には学生時代に恋愛関係になった、生き別れた恋人の間に一人の男の子がいたらしい。皇室関連ニュースの一覧にこれでもか、とデカデカと書かれていたさ。あっちからお出ましだったわけ」
彼の怒濤のような言い分に口車だけが回った。
「お前、その皇室関連ニュースに無様にカミングアウトしたら、その界隈ではヒーローになるぞ、すぐさま」
彼の怒号はそのうち、昇華し切れない悔恨へと変わっていった。
「お前が本当に内情を知らなくて、俺なんかよりも底辺を這いずり回っていたって、信じてやるよ。でも、お前は素性を漏らしたことで、お前が今まで歩んできた不幸を一瞬で吹き飛ばすくらいの、出自をお前は持ち合わせていたわけ」
彼の思い込みに真実味が加算されていくと同時に、彼の悔しさも十分なまでに呑み込めていた。
「君が調べたがっていたから許可しただけで、こんな結果が出るなんて、僕も微塵も思っていなかった」
実際のところ、僕の動揺も凄まじかった。
これから、どうなるか、見当もつかないほど将来は晦冥に満ちていて、僕の運命共同体を悉く、出自を掌握しているように思えた。
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