第81話 同情の眼の色
「国民様を舐めるなよ! いいよな。お前はその家系に生まれただけで優遇されて。これから、父上様のところへ申し出れば、贅沢な暮らしが四六時中できるぞ。本当、俺って親に恵まれなかったなあ。ああ、こういうの、ネットスラングで親ガチャっていうのか」
ついこの間まで、僕を不遇な少年として、嘲りつつも同情の眼で白々しく、見下していたのに、何を根拠に責め立てているのだろう。
お前の勘違いかもしれないのに、と僕も彼の身辺調査報告書を全く持って信頼はしなかったので、彼よりも雲泥の差の境遇にある、負け組の代表として、彼を言いくるめた。
「君の勘違いだよ。何を根拠に筋の通らない台詞を吐いているのか、全く理解できない」
僕が冷静に言い切る前に彼の不満は大爆発した。
「国民のせいにするな!」
彼の罵声は母さんが深酒に溺れて、機嫌を損ねたときの頃合いに酷似していた。
「親ガチャと無縁な奴に言われる筋合いはないよ。何か、最近、ネットニュースで報道されていたんだよ」
彼の一触即発の言動に僕は挙措した。
「皇位継承者がここに来て、減少したから、俺たちの血税で旧皇族の男性は皇籍に復帰できるんだって? まあ、お前は高額な宝くじよりも当たらない、天命のおこぼれをもらえるんだ。お前は今まで、俺ら庶民を鼻で笑っていたんだな」
彼の主張のほうこそ、鼻で笑いたいくらいだった。
「ネットで宮内庁のサイトを調べたら、神楽舞もそもそもは宮内庁の手下がやるものだろう? 御神楽っていうんだって。お前が神楽舞を練習していた、理由もマジ受けるわ……」
彼はあまりにも誤解している。彼の思い込みの度合いも行き過ぎている。
「神楽ってそういう謂われなんだね。はあ、そうなのか」
訂正しようにも僕は何を言えば、彼が納得するような話の展開に持っていけるか、全く持って検討できない。
「勘違いだよ。なあ、その男性と僕は関係ない。いいから、目を覚ませよ」
彼を宥めても彼の怒気はさらに上昇し、止まる激流を知らなかった。
「こんなに似ているのに? へえ、無様な俺をからかっているのか。皇族のお坊ちゃまは下賤の者をからかうことに慣れてらっしゃるんだな」
彼の不器用な尊敬語を駆使しながらも、本心では虚仮にしている、勘違いを加速させる、沈殿した怒りの根源とは一体何のだろう。
悩みがないように見えた、能天気な彼も、多くの人と同じように何かしら抱えている、と交流していくうちにしっかりと理解はしていたけど。
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