第80話 ダイヤモンドダスト


 何をこいつは喚き散らしているのだろう、と僕は猜疑心が拭えなかった。


 僕の頭は文字通り、世にも珍しい、ダイヤモンドダストが舞う極寒雪原のように真っ白になった。


 一瞬、何が何だか分からなくなった。


 僕の父親についての素性依頼をそれとなく、調査するように言ったのは紛れもない、僕自身の手によるものだった。


 が、その結果、思いもよらぬ秘密が暴かれて、どうだって言いたいんだろう。



「北崎ゆかり女史が聞いたら、卒倒するだろうな。君のお父さんのご身分について口を割ったら」


 この期に及んで、何をこの成金青年は嘯いているのだろう。


「君は真実を知って、どうも思わないの? へえ」


 彼は僕の意見広告に関心があったようだった。


「何で、そういう展開になるんだよ?」


 僕が蜘蛛の糸を掴むように否定すると、激怒寸前の彼は高らかに哄笑した。


「あれ、臣下の者や目下の者に拝謁された皇族の男性から賜るものなんだよ。だから、紛れもない証拠なんだ」


 どういう意味か、心の中に雪巻風が吹き荒れる。


「俺が言った話を本当だとは思わないから、黙るとでも? いいよ、証拠を見せてやるよ。ほら」


 彼はぎこちなく、鞄から荒々しく取り出した、スマートフォンの電源を入れ、上気しながら画面をタップすると、検索ワードに痛々しい音を伴いながら入れ込み、画像をアップした。



「君の顔にそっくりなんだよ。ほら」


 彼の指摘の通り、確かにその画面上に現れた、男性は僕に似ていたように思えた。


 一瞬、自分の容顔を手鏡で覗き込んだときの、フラッシュの面影の走馬灯を思い起こした。


 確かによく似ている。


 自分によく似た人物がこの世の中には三人はいる、と俗説があるが、その確固たる、証拠を見出したように感じられた。



「他人の空似だよ。馬鹿馬鹿しい」


 僕が思わず、切った口火に、余計に火を油に注いだようだった。


「馬鹿馬鹿しいって?」


 彼の怒号はそこかしこ、極まりの悪い悪意の華が充満していた。


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