第77話 光風霽月
遠花火もまるで、バックミュージックのように高らかに鳴り響き、一編の美しい、ミュージックビデオを再現するかのように僕は、その花鳥風月の前で、一人剣の舞をする。
もちろん、小刀は使えないので代用品でやり、汗水を垂らし、夏の月を見上げながら夢花火を花聞かせる。
通行人から舞を終えると、拍手をいつの間にか、もらっていた。
数人が花火見物のついでに僕の舞の披露に賛辞を送っている。
すっかり夢中になって、一人剣の舞をしていたから、赤面しないか、気にはなったものの、通行人の惜しまない、万雷の拍手に僕には誇らしさが生まれていた。
僕は腰を大きく下げ、会釈をした。神楽舞を捧げるときは、神に祈りを捧げるのだから、見物してくれた方々には、最大限の敬礼をしなければいけない。
僕はバックから篠笛を取り出し、見物人の前で吹けるようになった『紅蓮華』を吹いた。
イントロからサビまで丁寧に吹き、その蕭条たる音色は夏の夜の光風霽月の下、軽やかに響く。
見物人からリクエストがあった、ジブリの『君をのせて』やYOASOBIの『夜に駆ける』などを次々と披露すると、観客は何度も拍手を送った。
アパートで暇な時間ができると僕はスマートフォンをいじるのではなくて、半ば、節約のために篠笛を吹いていた。篠笛を吹くときだけは心穏やかになっていた。
月に叢雲花に風、スマートフォンのラインから、何度も彼女からの熱烈なメッセージを受け取るのも無視するときもある。
それくらい、篠笛は僕の至福のひと時だったのだ。
夜中まで篠笛を吹けば、沈鬱な心に明るい陽だまりが生まれ、闇夜であっても、花開く有色硝子のような満天星が僕を輝かせてくれたからだ。
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