第76話 夜の秋、一人剣


 納涼祭が終わったら、夜更けまで持参した線香花火を焚いて、その真夏の刹那の煌めきをこの心に絆として残したかった。


 それも叶わない淡き夢なのだ、とこの隅田川花火大会の花火を見るとその冷淡な実情を実感する。


 


 夜の秋、僕は同年代ではこのゼミ生しかない、つまらない青春の灯を無駄にしながら、彼の愚痴の相手になった。


 主に彼の愚痴は、学園生活の内情を占めていた。


 


 名門私大とは言っても、どの学生も夜遊びが激しく、女子生徒ならばパパ活をしていて当たり前、しかも、男子生徒でも、ママ活や中年男性相手の売春の斡旋もあり、レポート課題も剽窃がかなり、横行し、講義も私語だらけで話にならず、非常勤講師が泣き出したこともあった、と彼は自慢げに話す内容でもないだろうに僕に面白おかしく自慢した。



「君、あの北崎ゆかり女史に酷く気にいられているだろう。君ならば、うちの大学に編入できるんじゃないか。あの北崎ゆかり女史ならば、どんな汚い手を使ってでも、お気に入りにはどれだけ、優遇してくれるか、俺は知っているぞ」


 神楽舞をしながら彼の自慢話に付き合って、正直、断罪する気にもならなかった。


 


 真夏の青い月夜の下、くるくると独楽のように舞う神楽は、通行人が僕の元へ立ち寄って見物するくらいだった。


 最初、恥ずかしさはあったけれど、東京ではこの公園で同じように、舞踊の初心者が稽古するのはよくあることなので、通行人にも許容範囲だった。


 夜風を切って、宙を弔うように、舞う神楽は凄みのある、月明りの下では格別だった。


 

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