第74話 天満月、神楽舞


「今どき、有名大学の学閥に所属しない人間は出世できないぞ、と説得されて辿り着いた地がこんなうら若い男の子への売春の斡旋なんて、高校時代の俺が聞いたら笑えるよ。まあ、俺は北崎ゆかり女史から秘書みたいに扱われても実際に、君みたいに濃密な肉体関係を結んだわけじゃないから。どうも、俺はあの女王様からはお気に召されてなかったみたいだ。残念、残念」


 残念、残念、とわざわざリフレインした、モヤモヤとした黒い背景を僕は汲み取ろうと試みた。



「残念じゃないよ。全然」


 僕がつい、本音を口にすると青年は勝手に大笑いした。



「そうかなあ。君って本当に自信がないんだね。君は特別な名の星の下に生まれたような顔つきだよ。凡人とは違う何かを持っているような」


 彼のいう、特別な名の星の下で本当に生まれたのならば、僕はここまで多重な苦労を背負い込んではいないだろう。



「君も大変なんだね。お互いに」


 そう宥める、僕は神楽舞を捧げながら彼の世間話を聞いていた。


 胡蝶の戯れのようにくるくると回り続ける、神楽舞は清々しいほどに、熱帯夜の東京に清浄さを纏ってくれた。



「君、神楽舞がそんなに好きなんだね」


 朱夏の真珠色の天満月が澱んだ、漆黒の夜空にぽっかりと、仲間外れのように浮かんでいる。


 今夜はニュースでも流れていた、あのスーパームーンの夜だったのか。


「君ってお父さんがいるの?」


 彼が唐突に質問したので僕は舞を止めた。


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