桜と礫

第73話 桜と礫


 桜と礫。


 それは正反対の羨望と侮蔑を持ち合わせたもの。


 誰もが春爛漫の桜花を親しみ、礫石は誰もが見向きもしない。


 文豪・宮沢賢治のような石好きな朴訥とした人ならば、有象無象にある砂礫も関心を持つかもしれないが。


 


 成金青年との奇妙な友情もなぜか、育まれた炎暑が続く朱夏、僕は彼から彼女が所属する大学の裏事情を口裏合わせに知った。


 彼の口は末恐ろしいほどに軽く、僕との関係もさほど長くはないのに旧友のように尋ねてもみないのに滔々と喋り出した。



「女王様のおかげで俺は、あの大学に入学できたんだ。だから、俺は顎で使われる以外は、能がないんだよ。しょうがいないよな。成績も赤点ばかりだった、進学校生の俺の両親が泣きついて、北崎ゆかり女史に頼み込んであの名門大学に入学できたわけだし」


 彼の饒舌な口調には僕もさすがに呆れた。


 とはいえ、猛暑が続く仲夏、彼の言い分にも興味はそそられた。



「俺の家は都内では親父が開業医だったから、平均値として多少なりとも、裕福だったけど、大富豪ほど資金が潤沢っていうわけじゃなかったし、そうかと言って、大物政治家や大物社長とパイプが繋がっていたわけでもないから、苦肉の策だったんだよな、俺の両親も」


 裏口入学に金銭を注ぎ込む親も親ならば、子もそうだった。


 蛙の子は蛙。


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