第67話 薄羽蜉蝣、蟻地獄


 蟻地獄とは薄羽蜉蝣の幼虫なのだとか。


 成虫はあんなに優雅に火炎を率先して、日本画のワンシーンのように舞っているのに、幼子になると、捕食するべく、巧妙な罠を仕掛けるしか、生き残る術がないのか。


 僕の身体の反応を僕自身は何とも思わないようにしている。


 いちばん僕にとっていじらしい秘所を見せ合って、彼女の生贄になって、その遺骸でさえも荒鷲に啄まれて、何をしろ、と言うんだろう?



「男のあなたを虐めたいの。女ならば」


 涙も出ない。


 わざとか、と思うと、僕は冷汗が止まらなかった。



「女ならば、一度は願望を持つの。女を虐げる男に復讐をしたいって」


 彼女が何度も僕を抱き、僕を虐め、僕にぶつけると、僕は甘ったるい声で彼女に媚びた。


 先生! と語彙を消費したくなかったので、その呼称だけで表現して、彼女の欲望を満たす迷える子羊となった。



「惨めね。高校生活も送れず、私の腕の中で尽き果てて」


 僕は先生、先生、ああ、先生、とくどいくらい、尊称を言い、ついには瞼に涙が籠る。


「先生は僕に何がしたいんですか? 知っていたなら、多少なりとも人情があるんじゃないですか?」


 僕が涙を堪えながら言ったその先、彼女は眠り眼になり、半ば上の空だった。


「眠いわ。早くあっちへ行って」


 更年期症状が現れた彼女のほうから眠りに落ちた。


 不幸中の幸い、この悲痛な台詞を彼女の地獄耳に聴かれなくて良かったかもしれない。


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