ブラッドムーン、暗碧燐火
第64話 月と密会
高卒認定試験の当日、僕は彼女からしつこく呼ばれた。
試験日ギリギリになって彼女は僕との密会を熱望した。
結果、僕はその日、試験を受けられなかった。
万全を期して充足な準備をして臨むはずだったのに彼女は僕を蹂躙した。
蹂躙なんて使ってはいけない、禁句だろうが僕の辛労としてはその卑語が相応しかった。
僕は反対もせず、彼女の酷愛に応じ、朝から没入し、その夕刻の房後、彼女と貸し切りの会員制のレストランで食事をした。
高級な食事だった筈なのに味を何も感じない。
試験なんて年に三回あるんだから、またのご機会にすればいいじゃないか、と叱り付けるように反芻しても、ささくれた責め苦は止まらない。
「あなたはいつも不機嫌ね」
出された食事のメニュー、ビーフステーキの肉片がなぜか、彼女の縮んだ唇のように見えた。
彼女は僕と接吻を繰り返すと、高齢のためなのか、皺だらけになり、カサカサになってしまうのだ。
彼女がそれに気付くと、大量のリップクリームを塗る羽目になるのだが、どんなに厚化粧し、高額のエステを施し、高級品の化粧品を投入してアンチエイジングに奔走しても、老化は隠し通せないのだ。
老残に抗おうとする彼女の熱心さに僕は感心する。
「先生は気にしすぎですよ。僕は疲れやすい体質なんです」
僕は無理やり、ビーフステーキを口にした。
「この後は切り上げですか」
そんな言い分を期待した僕が愚行だった。
「何を言っているのよ。私の家に来なさい。お仕置きするから」
彼女の厳然な対応に僕は唖然となった。お仕置きって今更、何を言うんだろう?
「先生、僕は何かしましたか? 不機嫌になられたら申し訳ないと思って」
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