第54話 見果てぬ夢、黒い蝶


 彼女との色情も予定通り、ぬるま湯に浸かったように続行している。


 十六歳の僕は見果てぬ未来を夢見て、丁寧に一つ一つの希望を壊しながら、彼女の性愛の餌食になっているのだ。


 彼女は僕を何度抱いても飽き足らず、僕を抱けば抱くほど、虚無感は増大し、締め付けのように叱責の内容も悪くなる。



「あなたはこの世界に疲れているのね」


 彼女の愚痴に黒い蝶の戯れの爾後の僕は酷く縮こまった。



「私と会うたびに行為に及んでもあなたは相変わらず、憂いのある顔立ちのまま、そうやって孤独と耐えているんだから。今までの青年と違うの。あなたの周りには常に悲しみが回っている」


 彼女は僕を悲劇のヒロイン、と女装した踊り子の男娼として、麗しく比喩したいのだろう。


 いや、それは忌むべき揶揄というべきか。



「あなたは私くらいの婦人になると気になってしょうがいない青年なのよ」


 そんな会話を僕が肌を合わせながら、言うように彼女は悪巧みに企むのだった。


 彼女の最近のお気に入りは、情交を長時間労働のようにしながら僕を称賛し、僕がぎこちない、オルガズムのために空なる恋として、ピークを達してから、地獄へと叩き落すように快楽の余韻に浸る僕を悪罵するのだった。


 


 それが僕はまだ、少年なんですよ、と彼女に告げられたら、どんなに気楽になれるだろうか。


 あなたがやっている容疑案件は、立派な児童買春なんです、と告げられたら、どんなに肩の荷が下りるのか、知る由もない。


 


 梅雨が明け、本格的な夏が到来した女郎花月、日盛りが多くなるこの頃だった。


 この情事も性欲旺盛な彼女のために、精も根も尽き果てながら、昼行灯のように日永から戯れている。


 


 彼女からの強烈な誘いを、僕はうまく断れなかったのだ。


 本当は宍戸さんが今日、珍しく遠出して、東京スカイツリーに僕を連れて行ってくれる、と約束していたのに、彼女の急用のせいで計画は台無しだった。


 

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