第53話 花の雫、砂嵐
勘違いで裏切られたくもないし、裏切りたくもない。
言葉の砂嵐と切れた言葉の電線。
どうして、今日が今日として、刻印されぬまま、通り過ぎてしまうのだろう。
今までの過去と一度も僕は一ミリたりとも会えないのに。
振り返っても掴めない過去の墓石と、シルバーグレイの栄光と失墜の僕が編み出す、空想科学の失楽園。
行き先を忘れ、華々しい日々を怨恨と破壊力で、気高く忍べばいいよ、ねえ、僕は再び、夕空を見る。
いつも掴めない、この心の汚濁を清く攫い出せれば、果てしない孤独を抗う、瑠璃色の揚羽蝶が僕の荒んだ瞳を見えなくさせる。
父さんと仮想空間で再会したのは、全くの偶然だった。
前に一度、母さんから聞いた父さんの本名をネットで検索エンジンにかけ、僕はその結果に液晶画面の前で委縮するしかなかった。
父さんの名前は検索したらすぐに見つかった。
というよりも、ちょっとした有名人だったようである。
父さんは都内の名門大学の法学部を卒業し、都内の法律事務所で弁護士として働いてようだった。
父さんの名前は、……僕は意地でも記したくない。
一度たりとも、忘れたことのない、呪詛に満ちた名声を獲得した、固有名詞であることには変わりはなかった。
僕の父さんは十九歳の上京したばかりの、純朴な小娘の母さんに狡猾に近づき、その豊富な社会性で油断させた。
その花の雫の一滴残らず搾り取り、最後には父無し子を孕ませ、搾り取るだけ搾り取り、絵に描いた餅のように僕ら、母子を見捨てた。
僕の父親がどんな社会的に評価され、名声を浴び、嫌悪と失望を感じない、豊かな生活を送っているか、想像したくもないのも無理はなかった。
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