第47話 荒廃したスクランブル交差点
地縛霊なのか、それても、御柱なのか、姫のポジションはすこぶる、曖昧だった。
後世の人々の寿命を縮めた、張本人の死神のような彼女に、令和の日本の状況を監視しても、悪い冗談にしか感じられない。
「私は不死を得たのです。あの緑水の深淵にこの身を沈めてから」
天孫・瓊瓊杵尊も得られなかった、不死を姫は得ている。
だからこそ、僕と夜遊びをしているのだ。
都会の片隅で孤独の猛毒にやられているのだ。
それも、吸い込んだら一瞬で窒息死するような類の劇薬を。
「ここにいる人たちをどう思う?」
涼暮月の夜の底、不可思議な姫との邂逅は僕以外には見えない。
なぜ、姫の姿を僕だけが見えて、他の人には見えないのか。
僕の壊れた精神はどうしようもない、回復できない領域まで達してしまった、紛れもない証拠なのか。
「私にはどの方も同じように虚ろな目をしていると思いますよ。楽しそうに和気藹々と騒いでいる若人も、その心の内側の皮を剥けば、虚無感で充満しているのが目に浮かびますからね……」
姫の仰せの通りだった。
青水無月の摩天楼を重視する、華やかな高層ビルが立ち並ぶ渋谷のスクランブル交差点も、一歩間違えれば、コンクリートジャングルの熱帯雨林になるのだった。
「あなたにいいものをお見せしましょうか」
スクランブル交差点で僕が姫を引き連れたまま、抜き足差し足で歩いていると唐突に姫は呟いた。
「君は妖術でも使えるの?」
振り返り、姫の卑屈な笑みを垣間見た、と思ったとき、僕の鼻腔には有り得ないほどの酸鼻を極めた腐臭が突き刺した。
ウっと咽喉が焼かれるような激痛を感じ、口と鼻を押さえると、視界は反転し、辺りは目を疑うような惨状が広がっていた。
それは荒廃した、戦場と化した渋谷のスクランブル交差点だった。
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